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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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26/28

嵐が去って

「じゃあ、部屋に戻りましょう」

「はーい」

席を立って。

袖を握りながら。

とことこ歩く。

ん?

賑やかな声の塊が近づいてきた。

「あら? さっきのお姉ちゃんやない」

「あっ、どうも」

おばさま三人衆登場。

あはは……

嫌な予感しかない。

案の定。

三人衆の視線が。

一斉に隣のけんくんに注がれる。

「あら。お兄ちゃん、男前」

「ほんまや、かわいらしい彼やね」

「ええなぁ、若いって」

「あ、いえ、僕は」

けんくん。

大阪に住んでるのに。

免疫ないんだ。

ちょんちょんと。

私はけんくんの上着の裾を引っ張った。

首をかしげるけんくん。

「なんか初々しくてええなあ」 「これからお楽しみやぁ」

「頑張りや」

笑い声を撒き散らして。

三人衆はラウンジへ消えた。


「はぁ……」

疲労と安堵。

複雑なため息一つ。

「あの人たち、知り合いですか?」 「浴場で会ったの、浴衣の着付けしてくれたんだ」

そっと、帯の縁を指でなぞる。

「なるほど、あれ勘違いしてますけど」

けんくんは。

三人衆が去った方に視線を投げた。

「いいの。実際の関係を言っても。逆に根掘り葉掘り聞かれるよきっと」

「なるほど」

「妄想なんだから。ちょっと……」

言いかけて。

顔が。

ぽーっとしてきた。

「ちょっと、なんです?」

「なんでもない。帰ろ」

「気になりますね」

「私は気になるけんくんが気になる」

「?」

「もうさ、この話題はおしまい」

ペタペタ……

スリッパを鳴らして。

私はちょこちょこと歩き出す。

言えるわけないでしょ。

あのおばさま方の妄想……


私はエレベーターのボタンを押す。

数字のランプが。

テンポよく降りてくる。

2階で一旦止まる。

そして。

キン。

扉が開いて。

一人の女性が。

スマホで話ながら出てきた。

『りょう、今どこ……』

!?

すれ違い様に。

微かに鼓膜を震わせた響き。

思わず振り向いて。

女性の姿を追う。

足早にエントランスの方へと向かっていく。

チクリと歯が染みたような痛みが胸を刺す。

「ゆうさん。どうしました?」

けんくんは。

エレベーターに乗り込んでいて。

開閉ボタンを押してくれていた。

「あ、うん……」

亮さんとのランダムチャットが終わる時。

亮さん、スマホを気にしていた。

あの時の私の問い掛けは。

聞こえてなかったみたいだけど……

もしかして。

彼女……

かな。

エントランスに目をやったけど。

女性の姿は消えていた。

「ごめんね」

ペタ、ペタ。

とエレベーターに乗る。

「閉めますよ」

扉が閉まる。

ん?

鼻をくんくんと嗅いでみる。

香水かな?

鼻から抜けるような清涼感。

その中に柑橘系の微かな匂い。

柚子かな?

でも。

少し草木の青々とした感じがする。

あまり嗅いだことのない香水。

あっ。

田舎の森の匂いに似てる。

キン。

扉が開く。

私が先に降りて。

けんくんが着いてくる。

「ゆうさん。何かあるんですか?」

「え、ああ、エレベーターの中、珍しい匂いしなかった?」

「匂いですか? 全く気になりませんでした。たぶん音痴ならぬ嗅痴なんですよ」

「ん?」

「ん、んんっ、失敬」

浴衣の衿をそっと摘まんだ。

「あ、あとね、気にしすぎかもしれないんだけど」

「どうぞ、話して下さい」

「さっき、エレベーターから降りてきた女の人。電話してたでしょ?」

「そうでしたか? 全く気にしてませんでした……」

首をひねって。

肩を落とすけんくん。

「あ、全然、気にしないで。すれ違った時に、『りょう、今どこ』って言ってたの……」

「ほう。面白いですね。で、その女性は?」

「外出したみたい」


ガチャ。

けんくんが扉を開けて。

促された私が先に部屋に入り。

電気を点ける。

静かな室内。

私は奥まで進んで。

窓際のベッドに腰かけた。

けんくんは隣のベッドに座る。

「まあ、僕らが探している亮さんと、同じかどうか、分かりませんからね」

「そうだけど……」

どちらにしても。

気になるよね……

「ゆうさんの気持ちも分かります。けど、現実として、その女性になんて聞きますか?」

「まあね」

「いきなり、白戸亮さんご存知ですか……ありかも」

「え? ええ!?」

声と鼓動が跳ね上がる。

膝の上の手が。

浴衣を握りしめていた。

「こちらとしては、人を探してるだけですもんね」

「けんくん。すごい。でも……」

けんくんは両手を前に突き出して。

私の言葉を制止した。

「女性が外出ということは?」

「ホテルの宿泊客……」

あっ。

拍動が徐々に強く早くなる。

「そうです。もしかしたら亮さんもいるかもしれない。ただ、チャンスは、一回。それも、もう失われているかもしれないので」

「そっか。帰って来てたら……」

口の端をあげるけんくん。

「えーと。今19時47分。その女性をロビーで待ち伏せます」

「うん……」

「但し、もうホテルに戻って来てたらお手上げですね。明日の予定は変えられない」

「ふん」

「僕らが出発する時の偶然しか残りません」

けんくんは。

すっと。

立ち上がる。

私も腰をあげる。

浴衣の裾を整えて。

小さく手を挙げた。

「どうしました?」

「あの、お手洗い」

「ああ、どうぞお先に」

ん?

「けんくんも行くの?」

「どうぞ、僕、後でいいですから」

「けんくんが先でいいよ」

「ん? どうして?」

「どうしてもです」

語気を強めると。

けんくんは。

頬をぴくつかせながら。

「あ、はい。じゃあ……」

くるりと回れ右して。

トイレに入って行った。

もし。

あの女性が。

亮さんの……


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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