トマトの私
夕食に出された。
オリーブ牛という。
夕凪島の特産品。
オリーブを餌に飼育された牛。
このお肉が。
めちゃくちゃ美味しかった。
ステーキだったんだけど。
柔らかくて。
あっさりしてて。
けんくん曰く。
「丼三杯いける」
それくらいの衝撃だった。
付け合わせの野菜も。
小鉢にあったお刺身も。
地元で取れたもの。
地産地消の品々で。
醤油や佃煮も島で生産されていて。
少しだけついていた素麺。
これが。
今まで食べたことのない。
つるつる以上のつるつるした食感で。
虜になってしまった。
そんな食事に舌鼓を打ち鳴らして。
食後のデザートタイム。
シャーベットとミニケーキ3つ。
ちょっと満たされ過ぎて。
帯が苦しい。
この旅の最中に。
太るかも。
想いだけじゃなくて。
重いが増えそう。
「一応……」
口を開いたけんくん。
私がお風呂に入っている間に。
昔と今の八十八ヶ所の霊場のすり合わせをしてくれていた。
その結果。
明治を境に霊場から外れた神社が明らかになった。
その数は全部で11。
応神天皇を祀っている。
5つの八幡神社。
これらは今も現存している。
残りの6つのうち2つが廃社。
残っているのが。
島の西南端の小瀬地区にある。
小瀬石槌神社。
「あと、3つは神宮寺だったようで、今は寺として存続しています」
「神宮寺か。神仏習合で神社の中に作られたお寺だよね」
「ですね、本当の意味で廃社となったのは、坂手町の水分神社と鰐神社ですね」
「水分でみくばり。面白い名前だね」
「ええ、名こそ違えど御祭神は、いずれも豊玉姫ですね」
「じゃあ護龍神社とは関係なさそうなんだ」
「そうですね。神宮寺から寺として残った。弘法寺をはじめとする、3つの寺院も、名も祀ってる仏様も繋がりはなさそうですね。今のところ」
「そっか……」
ミニケーキを一口。
甘くて少し香ばしい。
ん?
「けんくん。どうして、その神宮寺のお寺たちは八十八ヶ所に入らなかったのかな?」
「ゆうさんも、そう思いますよね。そもそもの八十八ヶ所には定められてた訳ですし、ということは、それなりの由緒があるはずですから」
「何かあれかな。仲悪くて外されたのかな」
「なるほど……」
けんくんは。
腕組みをして。
目を閉じる。
なんか思いついたみたい。
私はその答えを待つように。
少し身を乗り出した。
「でも、せっかく来たんですから、その場所に行ってみませんか?」
「へ?」
ガクッとなって。
ゴン!
「……っ!」
テーブルの角に肘を痛打。
「大丈夫ですか? で、どーします?」
私は肘をさすりながら。
うなずく。
「ふん。行きたい」
「じゃあ、明日のスケジュールを決めましょうか」
けんくんは。
ポケットから取り出した。
夕凪島の地図をテーブルに広げた。
「はあい」
二個目のミニケーキ。
噛んだ途端に。
ベリーの甘酸っぱさが広がる。
「まず、9時に西龍寺の不破住職と約束しましたから……ホテルと同じ瀬田町ですけど、30分程かかるみたいですね」
「山の上だからかな?」
「でしょうね。余裕を持って、8時にここを出発しましょうか」
「ふん。了解。廃社になった神社がある坂手町は、島の東南端なんだね」
私は地図を指差した。
どうやら。
そこにも港があるみたい。
船でしか繋がらない島だけのことはある。
「そうですね……そうしたら先に夕凪島大観音を見てみませんか? 西龍寺のある麻霧山を越えた先にありますから」
「ついでに、あの宿泊施設のそばまで行って欲しい」
「もちのろん」
「ん? なんて?」
髪を耳にかけながら。
そっと手を添えた。
「あ、これは失敬。はなからそのつもりですよ」
両目ウインクのけんくん。
「はい。ありがとう」
私は微笑みを添えた。
ウインクで返す。
「ゆうさん。会えるといいですね」
「ひゃっ。何、急に」
「ゆうさん。彼のこと考えてる時、すごく優しい顔してる」
「もう。また、そうやってからかう」
頬が染まる。
ばくりと。
口に運んだシャーベットが。
キーンと鼻を襲う。
両手を握りしめ。
固まる私。
「トマトはいじめた方が甘くなるんですよ」
「何それ」
しかめ顔で。
眉間を押さえながら。
じーっと。
見つめてみた。
けんくんは。
ピクリと眉を上げて。
視線を外した。
「失敬。その、あれです。トマトは環境が過酷であれば、その実が甘くなるんです。だから、会えない時間が、ゆうさんを魅力的にするのかもなんてね」
「へ?」
ぽーっと。
してきて。
指先で衿元を撫でた。
「ああ、ごめんなさい。本当にダメだな。元気づけようと、柄にもないこと言いました。ごめんね、ゆうさん」
けんくんは。
頭をかきむしり。
テーブルに両手をついて。
頭を下げた。
「ううん。大丈夫。けど、けんくん、たまにドキッとさせるようなことを言うんだね」
「ははは、面目ない」
「いいよ。でも、やっぱりけんくんもてると思うな。本当に彼女いないの?」
スッと。
一瞬。
伏せた瞳。
「いませんよ」
笑った顔には。
その名残は。
見当たらなかった。
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