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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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24/28

たぐる

そうだ!

心に浮かんだ。

閃き。

それを確かめるため。

私はちょこちょこと早足で。

それよりも幾分早い鼓動を伴って。

フロントに向かった。

「あの、ちょっと伺いたいことがあるんですけど」

「はい。なんでしょう」

短髪で清潔感のある。

端正な顔立ちの男性。

お手本以上の微笑みを返してくれた。

「あの、夕凪島の大観音様が見えるホテルってありますか?」

「ええ。ございますよ。少々お待ち下さい」

「あっ、はい」

男性スタッフは一礼して。

カウンターの奥。

おそらくスタッフルームに引っ込んだ。


「お待たせしました」

男性スタッフは。

手にしていたパンフレットを。

カウンターに並べた。

「あ、ありがとうございます」

「いいえ。一応三件ございます。夕凪島大観音の一番近くにあるのがサンセットヒル・夕凪島です」

「はい」

近代的な白い建物。

「そして。こちらが旅館、せせらぎの里です」

木造の年期をまとった建物。

「最後が、古民家をイノベーションした民泊施設、ゆるり夕凪です」

何軒かの木造の民家の写真。

「観音様が、山の上にある感じに、見えるのでしょうか?」

「そうですね、それでしたら、せせらぎの里か、ゆるり夕凪になると思います」

「ありがとうございます」

「いいえ、今日は雨模様でしたが、明日は晴れそうですから、夕凪島で素敵な時間をお過ごしください」

「あ、はい、ありがとうございます」

私はパンフレットを抱えた。

「でも、雨も良かったです。なんか。山も海も……島も恥ずかしかったのかな。って。とても幻想的でした」

男性スタッフの厚意に。

心を込めて。

頭を下げた。


浴衣も着れて。

亮さんが。

泊まっているかもしれない。

場所にも目処がついて。

ふわふわしながら。

ぺたぺたと。

スリッパを軽快に鳴らして歩く。

「ただいま」

「お帰りなさい」

けんくんは。

私には目もくれず。

ノートパソコンとお見合い中。

そろそろと。

ソファーに腰かけているけんくんのそばに近づいて。

「じゃーん。見て、見て。似合う?」

片手の袖を広げて。

ポーズをとる。

「ほう。いいですね浴衣。僕も着てみようかな」

「それだけ?」

「他に何か?」

私は手提げ袋とパンフレットをベッドにポンと置く。

まあね。

けんくんに求めても。

しょうがないんだけどさ。

すとんと。

ベッドサイドに腰を下ろす。

かわいい。

くらいほしかったな。

「そろそろ、夕食行きますか?」

「けんくん、お風呂は?」

「寝る前に入ります」

「そっか」

そうだね。

生活リズムは人それぞれだもんね。

「ん? そのパンフレット何ですか?」

けんくんは。

すっと。

首を伸ばした。

「ああ、夕凪島大観音が見える宿泊施設のパンフレット」

「ほう。お風呂に行っても調査を忘れない。ゆうさんすごい」

「えへ。まあね」

ハハハ……

そこは褒めてくれるんだ。


「どうしましょうか。その宿泊施設を訪ねたとて、彼が宿泊してるか普通に聞いても個人情報保護の観点から教えてもらえないでしょうし」

「そうなんだよね。しかも、旅館と民泊施設だから。気安くお邪魔できないでしょ? ホテルならラウンジとかでさ、お茶とかできるけど」

「でも、なんか活かしたいですね。せっかく手に入れた情報ですから」

「うん」

「とりあえず、食事に行きますか。話はそこで」

「そだね」

「なんか。お酒を飲みたい気分ですね」

「え? もう、私を酔わせてどうするの?」

「ん? どうもしませんが? お酒は20歳からですよ」

「知ってます」

「まあ、法律なんて、時の権力者のご都合ですからね。歴史に残る文献の類いと同じようなもんです」

「何かしらの意図が隠れてる」

「そう。陰謀論ぽいですけどね、歴史書に限らず善意にしろ悪意にしろ、それを書いた人の意思や編纂を指示した者の意志があるのは間違いないですから」

「そうだね。そこを紐解くのも歴史の面白い所だよね。答えが合ってるのか、立証は困難だけど」

「ですね。それに書籍や映像作品で、あたかも史実みたいに描かれているから混同してしまう」

「ああ、確かに読み物として面白いけど。すごく美化されたりしてるもんね。誰々史観ってやつだね」

「ええ」

うなずいて。

笑って。

私を見るけんくん。

「失敬。ゆうさんと歴史談義をしていると時間を忘れてしまいますね」

「ほんとだね。ご飯行こうか」

「ええ」


立ち上がった私は。

するすると先に部屋を出る。

けんくんが部屋の鍵を閉めてくれる。

そうだな。

確かに。

けんくんとは。

歴史に対する視点は近いのかもしれない。

何でもそうだけど。

あれやこれや言い合える関係や。

テーマがあるのは。

とても貴重なことだと思ってる。

もちろん私にも友達はいる。

けれど。

このような話をする機会なんて。

全く無い。

だから。

友達がどうだとか言うつもりもないけど。

ランダムチャットがきっかけとはいえ。

どこにどう。

大切な出逢いが潜んでいるかなんて。

やってみなきゃ分からない。

そもそも。

出逢いを求めてしていたわけではないから尚更。

浴衣の袖を握って。

手を振りながら歩く。

そっか。

袖触れ合うも他生の縁。

だね。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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