試行錯誤
けんくんの慌てふためく姿が。
少しおかしくて。
舌を出して。
はにかんだ。
けんくんは。
声を抑えて。
通話中。
私はそっと。
ソファーに腰かけた、
「大丈夫だよ」
?
あれ?
優しい声色。
「分かった。オリーブオイルね」
「え? ああ、分かった」
「じゃあ、またな琉唯」
「ふー」
けんくんは大きく長く息を吐いた。
なるほど。
電話の相手は。
妹の琉唯ちゃんか。
「あぶなかったですよ。ゆうさん」
おどおどした声のけんくん。
「ごめんね」
「いえ、なんとか誤魔化しましたけど」
「大変だね」
「本当に、女性と一緒だとバレたら。ゆうさんに何するか」
「え? 私に?」
「おそらく。まずはゆうさんです。そのあと僕です」
「ははは……」
なんか。
笑うしかないんだけど……
琉唯ちゃん。
けんくんへの想いは。
想像以上かもしれない。
けんくんは。
のそのそと立ち上がって。
「失礼」
私の隣に腰かけた。
「なんて、誤魔化したの?」
「ああ。テレビドラマの声だって」
「なるほど」
「ああ、何か言うことあったんじゃないですか?」
「ん? あっ、そうだ」
私は胸の前で両手を合わせた。
「あのさ、亮さんの名刺の肩書きってなんだった?」
「肩書き? えー……どうだったかな」
「名刺って。会社名とか書いてあるんでしょ?」
「まあ、大体はそうですね……でも、無かったような……」
「え!? 無かったっけ?」
「定かじゃないですが、名前と連絡先でしたね」
かすかな期待が萎んで。
こぼれた、ため息ひとつ。
「でもさ、そういう肩書きの無い名刺って。人に渡したりするの?」
「ああ、あるとは思いますよ。一時期、それこそ名前と連絡先だけ記した名刺を使うのが流行りましたから」
「そうなんだ。てことは亮さんも大学生の可能性あるよね」
「ええ。あると思いますけど。ゆうさんはチャットしてる時、どのような印象をもったんですか? 彼に」
「ああ、うん。年上かな。少なくとも大人の、社会人の落ち着きみたいのは感じた」
「見た目は?」
「若く見える。大学生もなくはないかな」
「僕も社会人だと思いますね。あのような表現をする人が学生だと思えない。偏見かもしれませんが」
「そっか。じゃあ社会人ならなんで、肩書きのない名刺なんて渡したんだろ?」
「なるほど。いいですね、その着眼点」
「そう?」
「肩書きのない……会社には属してない。自営業とか。でも職業くらいは記載すると思うんですよね」
「ふん。確かに」
窓の外は。
白から。
黒へ。
ゆっくりと塗り替えられていく。
天気のせいなのか。
海に囲まれた場所がらかのか。
東京のような。
光の気配は全く感じられなかった。
「ふむ。もしかしたら、逆もあり得ますね」
「逆?」
「えー。肩書きの無い名刺。つまり、人を欺くためのものとか」
「え……!?」
「推察ですが」
眉をふわりと浮かせたけんくん。
うなずく私。
「例えば、何かの事情で身元を明かしたくない。少し、謎めいた言い方をすれば、明かせないとか」
「……ふん」
「なら、その名刺の説明はつくことになります。けど……」
「けど……?」
「ゆうさんから聞いた限りですけど、彼の印象とはズレるんですよね」
「ふん」
「あのような会話をしたのは彼なりに、その時間は有意義だった筈ですしね」
「ふん」
「ですから。名刺の名前が本名だとゆうさんが言った時。彼の人物像の輪郭がおぼろげながら見えてきたんですよね」
けんくん。
色んなこと考えてるんだ。
「そうだ。例の住職にアポを取ってみます」
「うん。ありがとう」
亮さん……
私とのチャットを終える時。
楽しかったって。
言ってくれた。
実際。
私目線だけど。
時間が立つのは早かった。
今。
何してるのかな。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




