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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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19/28

途切れていたものが

テーブルに置かれた名刺。

そおーっと。

身を乗り出して。

そこに記された名を確認する。

明朝体で置かれた文字。

あっ。

白戸亮しらと りょう……

りょうさん。

本名だったんだ……

じんわり。

こころに広がる波紋。

穏やかなそれは。

私自身の直感が。

あの瞬間に本名を口にしていた。

それに応えてくれたような気がして。

りょうさんの想いは。

恋とは違うかもしれないけど。

ただ。

素直に嬉しくて。

その揺らぎに。

自然と口許が緩む。

「先輩は、何を伺ってましたか?」

けんくんは。

自然な感じで。

探りを入れてくれている。

「ん? えーとなんだったかなぁ」

畑さんは腕を組んで。

宙を見据えた。

ひゃっ!

けんくんの手が。

お尻に触れる。

私はお尻を押さえながら。

身をのけ反らして。

けんくんを睨む。

いくらけんくんでも。

どさくさに紛れて。

ん?

なんでもない顔のけんくんは。

腰の辺りで。

しきりにテーブルを指差す。

ん?

意味が分からなくて。

けんくんを見る。

声に出さず。

口で何かを言っている。

え?

なに?

め?

い?

し?

名刺がどうしたの?

ん?

けんくんは。

耳のそばで。

手で受話器の形を作る。

え?

電話?

誰に?

今度は。

両手で。

メモを取る仕草。

私はそっと。

名刺を覗き込む。

電話番号は……

私は数字を繰り返し。

頭にインプットする。

すぐさまスマホを取り出して。

その番号を打ち込む。

ごくりと。

唾を飲み込んだ。

りょうさん。

見つけた。

画面に映る。

名前と電話番号。

もう会えないと。

想っていただけに。

この旅行でさえ。

淡い想いだけで。

かすかな可能性に。

すがっただけなのに。

すごいよね。

しかも。

旅の初日。

幸先良すぎる。

ふっと。

隣から気の抜けた声がして。

けんくんが。

口の端を上げて。

笑っていた。

お礼を込めて。

ウインクすると。

けんくんは。

両目ウインクで返してきた。


「えーと。確か……」

畑さんの声に。

微笑みを隠して。

耳を傾ける。

「確か、異端者の伝説を調べてるみたいでしたな」

「異端者? ですか?」

思わず口をついた私は。

けんくんを見ながら首を傾げた。

「ええ。分かりやすく言えば、時の権力者に排除されたり、蔑まれた人々ですな」

「あれですか? 後醍醐帝や後鳥羽帝のような人達ですか?」

前屈みになるけんくん。

畑さんは。

眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げる。

「その御二方も、そうですね。権力闘争に敗れ各地に流された」

「ということは、この島にもそういう流された人々がいるのですか? 耳にしたことはないですけど」

食いつくけんくんに。

畑さんはやさしく微笑む。

「そういう事実はありませんよ」

「あっ……」

川勝さんの話が。

頭の中を新幹線のように。

流れていく。

島には珍しい苗字が多い……

誰それの末裔かもしれない……

「ゆうさん?」

眉をしかめたけんくん。

「どうしました?」

畑さんは私を見つめていた。

「あ、あの、でも、ここに落ち延びてきた方とかは、いらしたのかなぁ、その記録には残ってなくても……」

畑さんはゆっくりと背筋を伸ばす。

けんくんは。

目を見開いたまま。

私は。

髪を耳にかけ。

グラスを手に。

ストローを吸う。

やばい。

変なこと言っちゃったかな。

りょうさんのことで。

少し舞い上がってるかも。

「あなたも面白い発想をされる方ですな」

畑さんは。

何度かうなずいて。

「ええ。おりますよ」

さりげない口調だった。

「え!?」

ジュースを飲んでいた。

私の代わりに。

けんくんが声をあげてくれた。

私はそっとグラスを置く。

「ははは、それこそ、それを証明する文書もんじょなどは、少なくとも私は目にしたことはないですがね」

畑さんは。

人差し指で。

耳を抑えた。

「なるほど。耳にしたことはおありなんですね」

けんくんの問いかけに。

一度微笑んで。

畑さんはアイスコーヒーのストローを吸う。

ストローをちょんと。

つまむ指先がかわいい。

でも。

シワだらけの手。

「ふう。だからといって、どうこうなるものではないし、あからさまに騒ぎ立てるつもりもありませんがね」

「それは? どうしてです? もし事実なら歴史的にも価値はあると思いますけど」

けんくん。

興味津々の瞳。

「仮に。仮にですな。聖徳太子の末裔かもしれない。そんな方々がいたとしましょう」

「はい」

「その方々は、今も普通に生活されているんですよ。そこはそっとしておいてもいいんじゃないですかね」

「なるほど。配慮ですか?」

「まあ、そういうことかな。私も歴史を嗜む上で、知りたいという欲求は強いですよ」

「はい。僕も好奇心はあります」

「本を書きながら、今も調査していますが、何故そうなってるのか? という核心については発想がものを言ったりしますからね」

「はい」

「柔軟な思考というんですかね。いや、話が逸れましたな」

「いえ」

微笑み合う。

先生と生徒。

いいよね。

やっぱり歴史って。

「えー。あれですな、白戸さんが調べていたのは……」

あっ。

私は身を乗り出し。

畑さんの口許を見つめた。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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