機転
「葛城さんから、お話を聞きまして。これは面白いと思いましてね」
「はい」
「結論からいいますと現在。護龍神社というのは存在しない。過去にも」
「え?」
「慌てないで。まだお話を伺って今日の今日ですから。図書館のデータベースを調べただけですから」
「はい」
「この家系図の書式はおそらく明治の頃に書き記され。最後の里村弦という方が書き足したのでしょうね」
「えーと。曽祖父です。母方のそのまた母方の」
「なるほど。これコピーさせて頂いても構いませんか?」
「ええ」
「じゃあ、僕が」
けんくんは、家系図を持って立ち上がった。
「里村さんは、今はどちらにお住まいですか?」
「東京です」
「それはそれは、私も大学は東京でしたが、どうにも都会は合わなくて、島に逃げ帰った口なんですよ」
にこりと目尻にシワを寄せた畑さん。
人懐っこい笑顔が浮かぶ。
「でも、先生をされていたんですよね?」
「まあ、定年をしてから島の歴史を本格的に調べ始めて、いろんな面白い人や物と出会いました」
「先生、こちらをどうぞ」
戻って来たけんくん。
「ありがとう。ん? 先生なんてもんじゃないですよ。つい教師をしてたもんですから。返事をしてしまいましたが」
笑いながら。
畑さんは眼鏡の縁を触って。
家系図に視線を落とす。
「この最後のページにある紋様も興味深い。さしずめ神紋といった所でしょうかね。これも手がかりになりそうですな」
「先生。その、僕と彼女で考えた考察も聞いて頂きたいのですが」
「はい。是非とも伺いましょう」
けんくんが。
口火を切って。
私がつなぐ。
昔の八十八ヶ所の中に神社があるのではないかという推察には。
とても驚いて感心してくれていた。
「しかし、面白いですな。以前もあなた方のように角度こそ違えど島の歴史に興味を持たれた方がいました」
「そうなのですか?」
「あなた方とお話をしているとその時の事が呼び起こされます」
「その方は男の人ですか?」
「ん? いや女性の方でした熱心な面白い発想をする学生さんでね」
顎をさすりながら。
遠くを見詰めた畑さん。
「あの、つかぬことを伺いますが……」
けんくんが。
私の意図を汲み取ってくれた。
「なんでしょう?」
「僕たちと同じような調査をされている方が、最近先生を訪ねられたりしてませんか?」
「ああ、結構来ますよ。最近? 一昨日、男性が見えましたな」
ずきん。
拍動が大きく響く。
「その方はどんな感じの方ですか?」
「ん?」
畑さんは顎を突き出して。
眉間に皺を寄せる。
「あ、あの、僕の大学の先輩のりょうさんが夕凪島に調べものをしに行くと言ってまして……」
ハッとして。
けんくんを見ると。
何食わぬ顔をしている。
よくもまあ。
咄嗟に嘘がつけるなと。
半ば感心した。
「ああ、一昨日みえられた方かな? 確かそんな名前だった気が……」
「え!? 本当ですか?」
私の声に驚いて。
目を丸くする畑さん。
「ええ。確か……」
畑さんは上着のポケットに手を突っ込んだ。
そして。
名刺入れを取り出して。
舌で指先をなめて。
一枚の名刺を引き抜いた。
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感謝しております。




