人は見かけによらない
「さ、着いたよ」
「ありがとうございました」
「まあ、僕は暇してるから良ければ連絡して下さい。連絡先は健一郎から聞いて」
「はい」
川勝さんとは。
ホテルの入口で別れた。
ロイヤルビレッジ夕凪島は。
高台の上にあった。
近くに海があり。
変わらずに白波を持て余している。
数隻。
船が停泊していた。
ホテルの入口付近の壁には。
夕陽の名所100選というポスターがあり。
鮮やかな夕焼けの写真が私たちを迎えてくれた。
「うわー……きれいだね」
「ですね。明日は晴れ予想ですから。見れるかもしれませんね」
「見たーい。ていうか。お腹空きました」
「とりあえず、チェックインしてから考えましょう。ちょっと待ってて下さい」
「はーい」
ん?
段取りのいいけんくんも。
食事のことは後回しなんだね。
よし。
けんくんがチェックインをしている間に。
ランチの場所をスマホで検索する。
定食屋。
うどん屋。
素麺屋。
割烹にレストラン。
意外にお店は多かった。
ここから近いとこがいいよね。
「お待たせしました。とりあえず大きな荷物は部屋に運んでくれるそうですよ」
「助かるね」
「それから」
けんくんは。
車のキーを顔の前にかざす。
「あ、覚悟の時間だね……」
「ええ。まあ、そんなに交通量多くはないでしょうし、初心者マーク貼っとけば大丈夫でしょう」
「ははは……」
「とりあえず、休憩しましょうか」
けんくんに促され。
ラウンジで休むことにした。
「例の住職とアポを取ってみましょうか」
「ねえ?」
「ん? 何ですか?」
「大丈夫? 川勝さんと何があったか知らないけど。けんくんがらしくないからさ」
「ハハハ。ありがとう。いや、大丈夫ですよ。本当に。ただ……いや、オレンジジュースでいいですか?」
けんくんは。
片手を挙げてスタッフを呼んだ。
「郷土史家の畑さんとは、14時にここで会うことになってます」
「ふん。あっ。お昼は? でもあと1時間もないか」
「ここでも食べられそうですよ」
「そだね」
島の名物の素麺やオリーブ牛。
新鮮な海の幸を味わいたいけど。
観光じゃないしね。
私たちが。
昼食を済ませた頃。
「葛城様」
ホテルのスタッフがけんくんの名前を呼んだ。
「はい」
返事をしてけんくんは。
席を立った。
少しして戻ってきたけんくんの隣には。
痩身でスーツ姿の年配の男性。
黒縁の眼鏡。
整えられた七三分け。
小脇にノートパソコンを抱えていた。
いかにも神経質そうな。
学究肌の雰囲気がにじみ出ている。
私は立ち上がる。
「はじめまして。里村柚葉です」
お辞儀をして。
首をかしげて。
微笑む。
「はい。はじめまして。畑正信です。遠いところわざわざ嬉しいですな。しかもこんなに若いお二人が島の歴史に興味を持たれて」
あれ?
全然。
気さくな感じ。
「畑さん、こちらに座って下さい」
けんくんは。
向かいの席に畑さんを促して。
私の隣に腰を下ろした。
その時。
スタッフが飲み物を持ってきた。
けんくんの行き届いた気配り。
畑さんはアイスコーヒー。
私はオレンジジュース。
けんくんは……
ん?
トマトジュース。
なんで?
けんくんは。
満足気な顔でストローをすすっていた。
「葛城さんから、電話でざっくりとした説明は受けましたが。里村さんからも一応お話を伺ってもいいですか? それと、家系図を拝見させて下さい」
畑さんは。
眼鏡のブリッジを人差し指で。
くいっと押し上げた。
「はい」
私はスーツケースの中から。
家系図を取り出して。
畑さんに手渡した。
それから。
私の知っていることを話し始める。
不思議なもので何回も話すと。
要領よく内容を伝えられるようになっていた。
畑さんも。
「ふんふん」
と。
相槌を打ちながら。
耳を傾けてくれていた。
「なるほど。ありがとうございます」
「いえ、何かご存知のことはありますか?」
畑さんは。
ちゅーっと。
アイスコーヒーのストローを吸う。
そして。
顔を上げた。
きらっと。
照明の明かりに。
眼鏡のレンズが光った。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




