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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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16/28

島について。

夕凪島に着く直前。

雨が落ちてきた。

その幾重もの筋は。

視界をさらに遮り。

考えすぎかもしれないけど。

来る者を拒んでいるのでは。

そんな風にさえ思えた。

福田港のフェリーの待合室は。

乗降客でごった返していて。

べとりとした湿った空気が蔓延っていた。

けんくんを見失わないように。

後に続く。

「外に出ましょう」

「はい」

出入口の外のスペースは屋根があって。

雨がしのげた。

室内が蒸し暑かったおかげで。

心地いい寒さ。

「来ました」

けんくんが顔を向けた先。

傘を畳みながら。

一人の男性が近づいてきた。

日焼けした肌に白い歯を浮かべて。

男性はけんくんを。

そして。

私を見た。

笑顔を上塗りする男性。

「初めまして。川勝京一郎です。ようこそ。夕凪島へ」

川勝さんは。

言葉の調子に合わせて。

両手を大きく広げた。

「はじめまして。里村柚葉です」

深く頭を下げる。

顔を上げると。

川勝さんは腕組みをしながら。

じっと。

こっちを見ている。

笑ってるけど。

何かを探るような視線。

私は少しうつむいて。

髪を耳にかける。

「こいつ……健一郎に、君のような女性の知り合いがいたとはね」

じろりとけんくんを見た川勝さん。

「とりあえず、ありがとうございます。お願いしたとおり、ロイヤルビレッジ夕凪島まで送って下さい」

「はいはい」

川勝さんは。

ちらりと私を見て。

額の汗を拭うような仕草をして。

にこりと笑う。

「じゃあ、傘使って」

「え? でも……」

「雨に濡れるのは。いい男の特権だからね」

ウインクを一つ。

傘をそっと私の前に差し出した。

「僕は大丈夫ですから、ゆうさんは傘を使って下さい」

「え、ああ、うん。じゃあ、ありがとうございます」

傘を受けとると。

川勝さんは。

クルリと背を向けて。

雨の中へと軽やかに飛び出した。

「じゃあ、行きましょう。ゆっくりでいいですから」

けんくんも。

ふわりと笑って。

駆け出した。

私は傘をさして。

二人の後をとことこと追いかけた。

バラバラ……

傘に弾ける雨音。

アスファルトに跳ねた飛沫が。

素足に冷たく伝う。


赤い軽自動車に乗り込んだ川勝さん。

私はけんくんと後部座席に座った。

「いやー、本気で降ってるね。水も滴るって言うけど、びしょ濡れだ」

がさがさとタオルで頭を拭いている川勝さん。

隣ではけんくんが。

おんなじように髪を拭いている。

「なんか。すみません」

「気にしないの」

奇しくも男性は二人の声が重なる。

川勝さんはにやりと笑い。

けんくんは苦笑い。

なんだろう。

この空気感。

まさに。

微妙。

この言葉がしっくりくる。

「じゃあ、出発します」

フロントガラスで。

ワイパーがせわしく動く。

それでも追いつかないくらい。

激しい雨。


「えーと…」

川勝さんは。

夕凪島の観光名所について話し出した。

相づちを打つのは。

どうやら私の担当みたい。

風光明媚らしく。

景観がよいところが。

島のあちこちにあるみたい。

一生懸命に話してくれるけど。

実際の目的が観光じゃないから。

あまり興味がわかなくて。

唯一。

私を惹き付けたのは。

素麺やオリーブ牛といった。

食事に関するものだった。

会話の最中も。

外ほどでないにせよ。

ある意味。

絶妙な空気が漂っている。

けんくんは。

平静を装ってはいるけど。

明らかに口数が少ない。

詮索はしなくても。

二人の。

神妙。

な関係性が浮き彫りだった。

車は左に荒々しい海。

右に霧に覆われた山。

合間の道を進んで行く。

いくつかの集落を抜けて。

トンネルに入った。


「ふーん。君たちの旅の目的。観光じゃないよね?」

なんて答えていいのか。

私はけんくんを見た。

「はぁ……相変わらず。勘が冴えてますね。先輩は」

けんくんは。

うなだれて。

チラッと私を見て。

小さくうなずいた。

「えーと……」

私はどこまで話していいものか戸惑う。

すっーと。

明るくなり。

トンネルを抜けた。

ぼんやりとした白い世界を車は進む。

視界の中に建物が増えた。

どうやら。

町中を走っているようだった。

「彼女。ゆうさんの御先祖様が営んでいた神社を探しにきたんです」

けんくんが助け船を出してくれた。

「ほう。御先祖は神主かなにかで?」

ルームミラー越しに川勝さんと目が合った。

「はい。ただ、明治の頃に廃社になったみたいで……」

それから。

神社の名前やその当時使用していた苗字など。

りょうさんに関する以外の話を伝えた。

川勝さんは。

「ふんふん」

「へぇ」

と。

相槌を打ちながら。

私の言葉を催促した。

まるで。

おもちゃをおねだりする子供のように。

「なるほどね。自分も島の歴史はかじっているけど。護龍神社は聞いたことがない」

「そうですか……」

「比知という苗字も聞き覚えがない。島には珍しい苗字が多いんだけどね」

「そうなのですか?」

「ええ、まあ真偽のほどは別にすれば、誰それの末裔とかね」

「へぇー、なんか面白そう」

「まてよ……」

川勝さんは。

片手を顎に添えて。

首を捻る。

「そうだ。もしよければ、この話。父にしてもいいかな? それに……」

「お父様に?」

「ええ。父の方が歴史には詳しくて。他にも何人かに聞いてみようかなって」

「先輩にそんな知人がいるのですか?」

けんくんが割って入ってきた。

「まあね。多分一人はめちゃくちゃ詳しい。島のことに関して、知らないことは、ないかもしれないくらいにね」

言ってる内容と。

軽妙な口調のアンバランスが。

にわかには信じがたい雰囲気を醸し出している。


どうしたらいいかなって。

けんくんを見たら。

私を見ていて。

猫が見つめ合うみたいに。

二人して固まってしまった。

「そうだな。直接訪ねてみるのもいいかもね」

笑いを含んだ声の川勝さん。

「え?」

「ほら、僕が説明するよりか。自分達の目と耳で見聞きした方が断然いい。何より二度手間にならない。父には聞いとくとしても」

「じゃあ、お名前教えて頂けますか?」

「うんうん。そうこなくちゃ。三人寄れば何とか。色んな人の視点も大事だよ」

川勝さんは。

嬉しそう。

私はスマホを取り出した。

けんくんはメモ帳を。

不破龍応ふわ りゅうおう住職。不破の関の不破、龍は難しい方。応は応答の応」

「はい。ありがとうございます」

「西龍寺というお寺があるんだけど、そこの住職なんだ」

「えー……!?」

私とけんくんの声が見事に重なる。

「え? なになに?」

川勝さんは前を気にしながら。

チラチラとルームミラーを見ていた。

車はいつの間にか緩やかな坂道を下っていた。

「この先の山が麻霧山。そこの山頂近くにあるんだ西龍寺は」

霧に隠れ。

裾の部分がわずかに見えるだけ。

どれ程の高さなのか。

流石に分からない。

「龍応住職が知らないなら、余程のレアケースだと思っていいかな」

車は坂を下りきって。

道なりに左へ逸れ。

さっきとは別の町中に入っていく。

「もうすぐホテルです」

「はい」

川勝さんはハンドルを切り。

車は左へ曲がる。

「以前、会った人でね、面白いことを言った人がいてね」

どこか。

楽しそうな言い回しの川勝さん。

「面白いこと?」

「ええ。この島は何かを隠したり、守ったりするには適した地形と大きさだと。ね」

「隠したり、守ったり……ですか」

「面白いでしょ?」

一人笑う川勝さん。

車は町から逸れ。

坂をのぼり始める。

相変わらずの白い靄の中。

夕凪島に着いたけど。

島の一部もまだ目にしていなかった。


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