まだ見ぬ世界へ想いふけて
「この島。かなり特殊ですね。瀬戸内海で二番目に大きな島みたいで。四国の八十八ケ所の霊場は知ってるでしょう?」
「うん。お遍路さんでしょ」
「そう。夕凪島にもあるんですよ八十八ケ所」
「へえー、そうなんだ」
「四国と同じで弘法大師。空海が携わったという言い伝えがあるみたいです」
「空海は香川の人だよね?」
「さすがです。国産み神話にもユナキジマとして出てくるでしょ。ちょっと調べただけでも面白そうです」
「うん。確かに。それで、この古地図はなんの意味があるの?」
けんくんは。
人差し指を突き立てた。
「今の八十八ケ所と何ヵ所か場所が違うんですよ」
「え? どうして?」
「おそらく明治の神仏分離の過程で実施された、神社の整理、統合の影響があったのではと」
「ああ、神道を優位にするために神様と仏様を区別して、お寺を虐げたあれね」
「言い方に刺がありますけど」
すっと。
微笑むけんくん。
私はすまして。
口をすぼめた。
「ゆうさんの御先祖様の神社。確か明治の頃に廃社になったって言ってたでしょ?」
「ふん」
「おかしいでしょ? この古地図に載ってないの? まあ、この地図が百パーセント正しいかは置いといて」
うなずきながら。
人差し指を顎に当てた私。
そっか。
「なるほどね。けんくん鋭い。じゃあじゃあ。神社自体がなかったか。あるいは、記せなかったか……もしかしたら……」
「別の名前か。てところだね」
「うん。夜見守っていう別称もないもんね」
私は古地図を指でなぞりながら。
丁寧に見ていく。
「安直に、御祭神と名前にある龍から探してみたんだけど」
「うん」
「御祭神はまるまる四柱が同じなのはない。特に事代主と五十鈴依媛の二柱を祀っている所はないんだよね夕凪島に」
「そうなんだ。でも、事代主って恵比寿様とも呼ばれてるよね?」
「ええ。神仏習合的な見方ですね。それにこの二柱は親子だしね。五十鈴依媛は綏靖天皇のお妃。お姉さんの媛蹈鞴五十鈴媛は神武天皇のお妃」
「天皇のお妃が二人のお父さん。事代主は鼻が高いね」
「鼻が高いか……」
腕を組んで。
首を捻るけんくん。
「ん? どうしたの?」
「失敬、話が逸れそうなので。ゆうさん。事代主のお父さんは誰だか知ってる?」
「もちろん。大国主さんでしょ?」
「正解です。一つ仮説を。いや、妄想かな」
「妄想結構。伺います」
笑顔で首をかしげると。
けんくんは舌なめずりをした。
「ゆうさんの神社。対外的に別の名前があるのではないかと」
「うん」
「だから、この古地図と現在の神社。そうですね、神仏分離前ですから。お寺も含めて照らし合わせてみるのが早いかなと」
「なるほど。それであれか、龍の名前がついているところと合致したら」
「そう。そこが失われた社」
「失われた社……」
余韻を残して響く。
妙に耳に残る言葉。
「まあ、龍に囚われなくてもいいかもしれませんけどね」
「そだね。先入観なしで調べよう」
タンタン、タンタタン。
車内チャイムが鳴る。
『本日もJR西日本をご利用頂きありがとうございます……』
「あっ、着きますね」
けんくんは。
広げた地図を手際よくリュックにしまう。
車窓が緩やかになる。
初めて目にする景色が流れていく。
空一面に低く垂れ込めた雲。
雨降るのかな?
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