動き出して
秋の手前。
家を出る時。
朝焼けの空気は肌寒かった。
車窓に流れる。
ゆっくり色づいていく街並み。
普段なら夢の中にいる時間。
見慣れない景色が。
気分の高揚に拍車をかけているよう。
東京は眠らないというけど。
確かに家々の明かりは至るところで点いていて。
始発電車の車内も。
座れてはいるけれど。
それなりに人が乗っている。
「ふわぁ」
片手で口許を押さえて。
あくびをかみしめる。
全ては。
昨日の思わぬ出逢いから始まった。
結局。
けんくんと話し終わってから。
1時間くらい。
りょうさんとのやりとりを思い返していた。
4時に起きたから。
3時間ほどしか寝れていない。
けんくんには素顔をさらしているけど。
って。
りょうさんにもさらしたけど……
一応。
実際に会うのは初めてだから。
それなりの格好はしてきたつもり。
もちろん。
りょうさんに会えるかも?
という期待もある。
ただ。
あまり目かしすぎないように。
気を遣った。
と言えば聞こえはいいけど。
背伸びしても。
後でボロが出るより。
自然体のままがいいかなって。
東京駅には。
朝早くにもかかわらず。
多くの人々がホームにいた。
新幹線なんていつ以来だろう。
二人がけの自由席に腰を下ろして。
けんくんにメッセージを入れた。
『了解』
と。
短い返信。
私は。
コンビニで買ったサンドイッチを食べて。
新横浜を出た辺りで。
さすがに睡魔のいいなりになり――
目が覚めたら。
新大阪に着いていた。
乗り込んできたけんくんは。
それこそ。
通話している時と。
ちっとも変わらない。
トレーナーにジーンズという格好だった。
挨拶もそこそこに。
けんくんは座席に腰かけると。
リュックの中から沢山のファイルを取り出した。
「このご時世に紙なの? パソコンかスマホに記録してないの?」
「ん? してるけど。歴史を嗜むものとしてのマナーというか礼儀だね」
「ん? どういうこと?」
首をかしげる私。
「後世に資料を残すためさ」
得意気に口の端を持ち上げたけんくん。
間近で見ると。
画面上より自信満々に見える。
「なら。なおさら、USBメモリとかに保存しとけば、かさばらないのに」
けんくんは。
ニヤリと笑い。
突き立てた人差し指を顔の前で振った。
「いいですか? この後の時代で電気が使えなくなったらどうします?」
「ん?」
「電気がなければパソコンやスマホは使えない。ということは?」
「USBメモリとかも意味がない」
「紙も焼失する危険はある。ただパピルスや和紙のように自然の材料で作れるという利点が、今日まで資料として歴史を編んできたわけさ」
「へー。リスペクトします」
「ありがとう。で、これが夕凪島の江戸末期の古地図」
「へえー、そんなのも持ってるの」
「役に立つかどうか分からないけど。一応持ってきた」
「護龍神社はあったの?」
「ない」
「え? じゃあなんで見せたの?」
けんくんは。
にやりと口の端を上げた。
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