転がる石のように
『夕凪島に絞って、寝観音で調べたら、個人ブログだけど、写真付きで記載があった。今リンクを送った』
けんくんが。
ウインクという名の両目を閉じた瞬間。
ピコン。
通知音がして。
私はスマホを手に取る。
『その画像に映ってるのは夕凪島の対岸の四国の山並み。平らな山が有名な屋島』
「へえ。そうなんだ……」
源平の合戦があった所だね。
『夕凪島の西龍寺という山の上にあるお寺から見えるみたいだね』
「じゃあ……」
『うん。おそらく彼が話していたお寺というのが西龍寺。でも、この寝観音は島の人でも知る人ぞ知る代物らしい』
確かに青い海と空の間。
まっ平らな稜線を広げる山。
『その左隣の凸凹したのが五剣山。どうだい? 観音様の横顔に見える?』
「……見えるかも」
『決まりだね』
「うん」
『……行ってみようかな』
椅子にもたれて。
顎をさすりながら。
眉間にしわを寄せたけんくん。
「ん? どこへ?」
『もちろん。夕凪島に』
「今から?」
『おやおや、恋煩いは厄介だね』
「もう、からかわないでよ」
べーっと。
舌を出した私。
『これは失敬。明日から三連休でしょ。朝に出れば昼前には着ける』
「ん? けんくんの所から近いの?」
けんくんは。
柔らかな微笑みを一つ落とす。
『まあ、君なら言ってもいいかな。僕が住んでるのは大阪なんだ』
「そうなんだ。いいなぁ。でも全然、関西弁じゃないんだね」
『そりゃあそう。関西生まれじゃないからね。どうだろう。君も一緒に行く?』
「え……? 行きたいけど。私、東京なんだよね……」
唐突な提案と。
もしかしたら。
というわずかな可能性。
それに旅費……
夏休みにバイトして。
貯めたお金があるけど……
『東京か。遠いね。旅費もかかる。行ったところで彼に会える保証もないしね』
うう……
「痛いよ。心が」
『失敬……』
「でも、行ってみようかな……」
りょうさんのことも。
家のことも。
夕凪島につながっている。
りんごが地面に落ちるみたいに。
引力に吸い寄せられている。
気がした。
都合いいかな。
クスッとこぼれた笑み。
カチャカチャ……
『行くなら、僕の方で宿は手配するよ。もし、お金が足りないなら清算はあとで構わないから』
「いいの?」
『ええ。面白そうですから実地調査。あっ。僕の方は歴史ですけど』
「もう。私だって興味出てきたよ」
『まあ、彼も絡んでいますからね』
「けんくん……」
私はモニターに顔を近づけて。
目を細めて。
じーっと睨みつけた。
けんくんは。
片眉をピクリと震わせる。
カチャカチャ……
『失敬。じゃあ、明日の朝。東京駅、6時55分発のぞみ7号に乗ってください。僕は新大阪から乗り込みます』
「え? そんなに早いの?」
『ええ。少しでも向こうで活動した方が……ほら、彼に会える確率も上がりますよ』
失敬って。
全然、反省してないじゃん。
「……分かったよ」
なんか。
見透かされて。
バレバレな感じなのが。
気に食わないけど。
でもでも。
ご先祖様のことも。
気になってるんですよ。
『それで姫路まで行きます。そこからはフェリーですね。ゆうさんは免許持ってる?』
「うん。でも、全然運転してないよ」
『なるほど。バスもあるみたいですが、夕凪島での移動は車の方が良さそうですね。覚悟しといて下さい。僕もゴールデンペーパードライバーですから』
「……覚悟ね」
『他のことは、明日会った時に話しましょう。家系図とか必要そうな資料等々忘れないようにお願いします』
「うん」
『じゃあ、おやすみ』
「うん。おやすみ。ありがとう、けんくん」
けんくんは顔の脇で。
手をグー、パーさせながら。
プツンと消えた。
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