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死に場所を求めた結果


 今思えば、あの時の俺は精神状態が普通じゃなかった。

 だからこそ、それを心配したラファエルが王宮へ戻してくれたんだと思う。なのに、俺は奴の優しさがわかってなかった。

 自身が役立たずだから、力がない足手まといだから戻された。誰もそんなこと言っていないのに、なぜか決めつけて……。これも、上級異術の使い過ぎによる副作用だったんだろうな。


『……死にたい』


 それに気づかなかった俺は、王宮へ戻らずに庭園を意味もなく歩いていた。

 口から言葉を発していないと、衝動的にどこからか飛び降りでも首吊りでもなんでもしそうで怖かった。本当に死にたいわけじゃないのに。

 

 晴れているのにも関わらず、そうやって下を向いて歩いている時に彼女に出会ったんだ。


『お花さん、今日も良い天気ね』

『……?』


 声がする方へ顔を上げると、そこには庭園のベンチに座っている女性の姿が。対面した花壇に咲く花へ向かって、まるで人と会話をするかのように笑顔を振りまいていた。

 その笑顔が、声が、彼女の存在が、俺の沈んだ気持ちに突き刺さる。あんな楽しそうな人間の表情を最後に見たのはいつだったか。それが思い出せないほど、思考が停止した。


 俺は、いつの間にかその女性の存在にのめり込んでいた。

 花と戯れ、手元に置いてあった本を読み、空を見上げてはクスッと笑って……。それを薔薇のツタの影で見ていると、読書をする彼女の周りにはどこからやって来たのか子どもたちが次々と集まってきた。しかも、全員が笑顔になって彼女の朗読に耳を傾けている。


『……たちは二度と家に入ろうとしませんでした。おしまい』

『わー!』

『もっと、もっと!』

『じゃあ、次は……』


 彼女は、俺ができなかったことを目の前で簡単にやってのけた。

 あの時、こうやって子どもたちを笑顔にしたかったんだ。その場だけの笑顔じゃなくて、ずっと笑って過ごせるくらいに……。それができなかった俺にとって、彼女の笑顔が眩しく映った。


 そこで、俺は現実にかえる。

 これじゃあ、ストーカーだ。覗き見なんて、趣味の悪いことして何がしたいんだ? 見つかったら、彼女に嫌われてしまうだろう。そう思ってゆっくり退散しようと思った。すると、


『ベルナール伯爵のご令嬢様、うちの子の面倒を見てくださりありがとうございます』

『いいえ、とても楽しい時間を過ごさせていただきました』

『ほら、お礼を言うのよ!』

『ありがとう、姉ちゃん!』

『コラ、そんな言い方しないの! ……ごめんなさい、本当に』

『良いんですよ。また遊ぼうね』

『うん!』


 背中を向けた俺に、そんな会話が聞こえてきた。

 ベルナール伯爵のご令嬢様、とはっきり聞こえたな。そうか、そうか。


 それから、なぜか突然身体が軽くなった。今まで落ち込んでいたのが嘘のように、視界がクリアになった。モノクロだった空が、こんなに眩しいものだったのかと驚くほどに。

 きっと、彼女の陽気な性格に当てられたんだろう。王宮に戻るつもりはなかったが、これなら仕事に差し支え無さそうだ。ラファエルやルアーたちがあっちで頑張ってるんだ、俺だってまだやれる!


 そうやって、俺は彼女……ステラ嬢に救われた。今思い返せば、死ななくてよかったと胸を張って答えられるよ。だから、俺にとって命の恩人なんだ。



***



「異術、展開」


 俺を救ってくれた彼女をこれ以上悪く言われたくなかった。

 屋敷が燃えようが、誰が死のうが関係ない。

 これ以上、侮辱するような言葉を彼女の耳に入れてたまるものか。

 俺は、ステラ嬢を抱き寄せたまま、指先を小さく動かして空に文字を書いた。


 すると、同時に目を疑うような出来事が起こる。

 なんだ、これは……。


「レーヴェ、術を解け! 巻き込まれるぞ!」


 ラファエルの声にハッとし、書いていた文字を急いで消した。

 急に、腕の中に居た彼女が突然光り出したんだ。この光は、まさか……まさか。


 今の今までざわついていた周囲は、それを皮切りにシンと静まり返った。

 その様子を視界に入れていると、お屋敷の玄関先に女性の姿を確認する。ステラ嬢と同じ髪色に、瞳がブルーで……しかし、その顔は今、こちらを見ながら完全に歪み切っていた。


 そうか、彼女がソフィー嬢か。

 ステラ嬢と全然似てないじゃないか。





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