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過去の弱さ



 俺が、ステラ嬢に好意を抱いたきっかけは、王都から離れた地方への遠征だった。

 保持者の少ない癒しの異術は、持っているだけでこういう遠征に駆り出される。この時代は、医者が少ないんだ。それもあってな。

 当然、俺は騎士団のメンバーだから癒しの異術を持っていなくても駆り出される対象にはある。だから、遠征へ行くこと自体に不満はない。


 不満は、別のところにあった。


『レーヴェ、大丈夫?』

『ああ、今のところ問題ない』

『そうじゃなくて。どのくらい上級異術使ってる?』

『今ので18回。あと10回はいける』

『そんなに!? もう無理だよ。少しで良いから休んで』


 遠征先は、先日街同士の争いがあった場所。派手に対立したようで、建物の崩壊はおろか、生活できるような場所ではなくなっていて怪我人が続出していた。「平民同士の争い」と聞いてこうやってやって来たのだが……。その情報だけで、街1つが壊滅状態になるほどの損害を受けていたなんて誰が想像する? 

 しかも、その場に居たほとんどが子どもだった。話のできる子どもに聞いたところ、「お父さんとお母さんは王都に逃げた」と何も信じていないような瞳で俺に答えてくる。

 その中には、乳飲み子だっていた。なのに、親がどこにも居ない。どうやら、先日の争い以前に街が荒れ果てていたらしい。定時連絡を任せていた王都出身の人間は、どこかに逃げてしまっていた。


 ここ2日間休みなしで手当たり次第子どもたちを手当てしていった俺は、上級異術の使い過ぎとその悲惨すぎる現状によって体力も精神もメタメタにやられてしまった。誰かの赤子を抱えながら隣で心配するラファエルの声も、半分しか聞こえていない。ボーッとしながら、俺の前で治療を待つ子の列を眺めるだけしかできない状態だった。

 とにかく、手を動かすんだ。動かして動かして、体内の異術回路を整理して……。


 大人のせいで関係のない子どもが傷つくなんて、おかしいだろう。

 昨日治療した子なんて、足首から先が地雷によって吹き飛んでしまっていた。止血して傷口を固めることしかできなかったが……。一緒に来た、義肢の異術を持つ者なら歩けるようにはしてくれるはず。そうなるよう、傷口をなるべく整えたし。


『俺は大丈夫だから、他の補佐に行ってくれ』

『いや、君1人だと無茶するから僕がつく。さっき、ルアーが心配してたよ』

『……そうか、すまない』

『異力送ろっか? 僕、今日特に使ってないし』

『少しもらって良いか?』

『ほいほい。……今、このお兄ちゃんが治してくれるから待っててね』


 ラファエルは、「誰かが心配していた」という言葉に弱い俺を知っている。人に心配をかけるなんて、嫌だろ。俺は、世話をしたいタイプの性格であって、世話をされたい方ではない。兄弟が4人もいるからか、そういうことをされるとむず痒いんだ。……気持ちはありがたいがな。

 俺にだけじゃない。子どもたちに声をかけている行為だって、「気を遣っている」と言うのを見せずに笑顔だけを表に出す。奴は、俺よりもずっとずっと大人だ。同い年なのに、それを痛感するよ。


 異力を受け取った俺は、体内に馴染ませて異術回路を整えた。これがまた、精神面に大きく響く。

 異術は、万能に見えてそうではない。使えば使うほど性能は上がるし上級異術なるものを使えるようになるが、その分疲労感が募り気分は駄々下がりする。下手したら、鬱に近い状態になりそのまま自殺者も出てくるほど深刻な状態になるんだ。先月もそのせいで2名の癒しの異術者が亡くなっていた。

 ラファエルは、それを心配してくれているのだと思う。でも、ここまでくれば俺だって役に立ちたい。子どもが何をしたって言うんだ? なぜ、大人の起こしたことへの皺寄せを子どもが受けてるんだ? そんなの、おかしいだろう。


『サンキュ。楽になった』

『でも、無茶はしないこと。顔色酷いからね』

『他の癒しの異術者はちゃんとやってるだろ。俺だけだ、こんな……』

『仕方ない、君は炎の異術も持ってるんだから。むしろ、2つ持ってるのにこれだけ癒しの術を使えるのはすごいよ』


 俺は、その言葉に返事をすることなく子どもたちの応急処置に入った。

 足のない子、頬を持っていかれた子、下半身やけどを負った子。俺のところに来ている子どもたちは、比較的軽い怪我なはず。重症患者は、癒し専門の異術者が見てるからな。


 なのに、この有様だ。どれだけ酷い争いだったのだろうか。いくら止血しても軽い皮膚再生しても、大人が残した傷跡はこの子どもたちの中から消えることはない。

 あと、どれだけ国が発展すれば、子どもたちが笑って過ごせる地になるのだろうか。考えるだけで、涙が止まらなくなる。


『レーヴェ、深呼吸しようか』

『……っ、ぅ』

『大丈夫だよ。今の君は、異術で精神が落ち込んでしまってるんだ。悲観することはない』


 その後、この荒れた地に子どもたちを集めた施設が作られることを知った。建設中は、騎士団が交代でテントを張って子どもたちの面倒を見るらしい。

 らしいと言うのは、俺も志願したのだが強制的に王宮へと帰らされてしまったからわからないんだ。

 まだやれるのに。全然、異力が残っているのに。

 



***




 いくら異術を持っていても、それが使えないなら意味はない。

 なぜ俺は、癒しの術を使えるのに帰されたのだろうか。他の異術者だって、疲労困憊していただろう。いくら疲れていようが、俺だけが休んで良い理由はない。なのに、なのに……。


『……死にたい』


 王宮に着いてから、それしか口にしていない気がした。

 子どもたちを救えずに帰って来てしまったことへの罪悪感が、胸の中にずっと居座っている。


 そんな時、ステラ嬢に会った。

 王宮の庭園に居た彼女は、花に向かって「良い天気ね」と話しかけながら楽しそうに微笑んでいた。




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