彼女の住む屋敷
ベルナール伯爵のお屋敷は、以前カラフ殿の牧場へ伺った際にチラッと見えたのが印象に残っている。あの時、彼女は「ここがうちです」と紹介してくれなかったんだ。だから、よく覚えていた。
彼女はなぜ、紹介してくれなかったのだろうか。それができるほどの関係性じゃなかったといえばそれまでだが、彼女を見ていてそうは思えない。
門前に立つと、庭の奥に大きなお屋敷が見える。それに、左側には別邸か? いや、作りからして使用人の寝泊まりするような別棟かもしれない。まあ、どちらにせよ、その建物が本邸と比べて雲泥の差があるのは確かだ。どうせ作るなら、もう少し見た目を気にした方が良い気もする。
マークの話によると、彼女は「裏門につけて」とお願いしてきたらしいが……この位置設計なら、正門から入ったほうが目立ちにくい気が。守衛は屋敷の者なら特に気にすることはないだろうし、裏門からだとちょうど目の前に別棟の玄関が見えるから使用人がすぐ気づきそうだが……まあ、それは良いとして。
「ご用件は?」
「王宮の使いの者です。レオンハルト・オルフェーブルが来たと伝えていただけますと」
「どなたにでしょうか?」
「どなたでも、大丈夫です」
俺は、門前に居た守衛に声をかけた。
すると、とても無愛想な態度でめんどくさがっていることを隠そうともせずに対応された。一応、団服を着ているし、肩にある紋章は大佐のマークだ。しかも、アポなしでこうやって来ている。それを総合して考えれば、もう少々怖がっても良いんじゃないか? 伯爵が仕事を溜め込んでいる話が王宮に届いているのだって、知っているはずだし。
少々疑問が残るが、まあ良い。
今日の目的は、伯爵の仕事を促すことは表向きで、ステラ嬢の様子を見に来ただけだし。
「こちらでお待ちください」
「ありがとうございます」
とりあえず、格好を見て身分は保証されていると思われたらしい。門を開いてもらい、中へと入れてくれた。
しかし、それ以上は進んではダメな様子だ。「お待ちください」と言われたら、それに従わなくてはいけない。
俺は、守衛の背中を見ながら、同時に客人が来た時はどうするんだろうなあなんて余計なことを考えていた。毎回、人が来る度ああやって屋敷に駆け込んでいたら、その間の警備は誰がするんだ?
って、俺が考えることじゃないな。職業病が出て来てしまった。
『……ー』
「!?」
そうやって、ベルナール伯爵のお屋敷警備に関して考えているところに、何か声が聞こえてきた。
微かにしか聞こえなかったが、なぜか俺を呼んでいるような気がする。
もう一度耳を澄ませてみたが……何も聞こえてこない。気のせいだったのか?
しかし、なぜかその声に懐かしさを覚えた。まさか、どこかの窓からステラ嬢が俺を呼んでる!? って思ってお屋敷を見たが、そもそも窓の開いているところがない。別棟も然り。
「……よし」
守衛も戻ってくる気配ないし、少し敷地を歩いてみようか。なにもなければ、それで良い。勝手に散策してしまった俺が怒られれば済むことだ。
異術を持っていると、たまにテレパシーのようなものをキャッチすることがある。今のは、多分その類だろう。
そういえば、彼女の妹さんが異術持ちだったよな。……ん? 待てよ、ラファエルから聞いた容姿って、その妹さんにそっくりじゃないか? ベルナール伯爵が開催した彼女の婚約パーティ……本当は、ステラ嬢の誕生会だったらしいが……とにかくそのパーティでお会いした人物と似ている気がする。
ダメだな、あの時はステラ嬢を探すので精一杯になっていて、はっきりと顔を思い出せない。
もし、その子が現れたら、ステラ嬢のご様子を聞いてみよう。
例のドレスについては、面と向かって聞けばよくない結果しか見えないから置いておき……。
俺は、呼ばれた気がする方角へとゆっくり歩いた。もう一度だけ、守衛が消えた方を見たが……うん、まだ居ない。
ちょっとだけ、失礼します。どうしても、あの声が気になって仕方ないんだ。




