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勘違いであれば


 ステラ嬢に会えず1ヶ月が過ぎ去った。

 仕事中は仕事に集中できていたが、休日はひどいものだった。彼女に会う以前、俺はどうやって休みを過ごしていたんだ? それが、全く思い出せない。

 思い出そうとすればするほど、ステラ嬢と過ごした幸せな時間が蘇るだけ。それはそれで嬉しいし、そうやって思い出して余韻に浸るのも良いが、そうなると次は本物の彼女を抱きしめたくなる。


 しかし、彼女は伯爵の仕事をしてるんだぞ。

 きっと、長女だから爵位を継ぐのだろう。彼女には、その資格が十二分にある。聡明で判断力もあり、優先順位をつけるのは多分俺よりも早い。あと、なんと言っても可愛いし花がある。

 それを邪魔する男にだけはなりたくなくて我慢していたが……どうやら、彼女はご令嬢同士のお茶会に出席していたらしい。

 別に、それ自体は良い。良い! 良いとも……寂しいけど。会いたいけど!


 それよりも、問題がひとつあった。そのお茶会に出席していたのは、彼女らしき人物……ということだ。


「……そのご令嬢の容姿を聞こうか」

「ふふーん。さすが! でも、聞いたらもっと落ち込むかも?」

「何でも良い。事実なら受け止める」

「じゃあ、話すけど……。身長は平均的で、髪色はゴールド。ロングで少し癖のあるウェーブが入ってる」

「……ステラ嬢だ」

「でもって、大きな瞳が特徴の小さな顔、笑うと女性が見ても愛くるしいと思う表情をするらしい」

「……ステラ嬢だ」

「そして、瞳の色が透き通るようなブルーで、胸が平均より小さい。所謂、ロリ体型って感じだね」

「…………ステラ嬢じゃ、ない?」


 やはり、ステラ嬢ではないらしい。

 彼女は、翡翠色のまるで宝石のような輝かしい瞳を持っている。どう見間違えても、それはブルーにはならない。胸だって、サラシを巻いて隠すほどのサイズがあった気がする。怖くて直視したことはないが、あれで平均より小さかったら他のご令嬢はどうなってしまう?


 俺は、ホッとすると共に、2つの状況を思い浮かべた。

 1つめは、ステラ嬢がその人物にプレゼントしたということ。彼女のことだ、誰かに「欲しい」と言われて断れなかったのだろう。その光景は、容易に想像できる。喜んでドレスを譲る彼女の方が、想像しろと言われても難しい。

 そして、もうひとつが、その人物に奪われた場合だ。

 どちらにせよ、そのドレスを着ていたご令嬢はあまり褒められない性格の持ち主と見て良いだろう。ステラ嬢にもらったではなく、俺からもらったと言っているのだから。


 どっちだ? もし、奪われているのであれば、今この瞬間、1人で彼女が心を痛めているかもしれない。そんな状況で仕事をしてるなんて、女性にとっては拷問なんじゃないか?

 何か、他に情報があれば……そうだ。


「……レスは?」

「え?」

「そのご令嬢は、ネックレスをしていたか?」

「ああ、してたって。瞳と同じブルーのネックレス、それに、同じデザインのブルーの婚姻指輪もね」

「……俺がプレゼントしたものじゃない」

「だよねえ。ブルードレスにブルーアクセサリーは悪趣味。聞いた時、レーヴェの好きな色で固めたんだろうなあって思った」


 悪趣味かどうかなんて、別に問題じゃない。

 それよりも、ステラ嬢はそのドレスを着る時は必ず俺のプレゼントしたネックレスをつけると話をしていらした。それが、俺の中で引っかかっている。

 どこがどう気になるのか聞かれても、その話をする以外に特に考えはないが。でも、引っかかる。


 俺は、目の前の書類に視線を落としつつも、頭をフル回転させた。

 俺にできることはなんだ? こんな「だろう」「かもしれない」状況で向かったところで、彼女を困らせるだけだ。ここはもっと、余裕を持って行動を……余裕を持って……。


「あれ、出かけないの?」

「……それだけの情報で彼女のところへ行ったら、ただのストーカーだろ」

「自制心はあるんだ、へー尊敬。でもさあ、まだ情報があるんだよね」

「なら、一気に言えよ。仕事をしたくないからって、お前は」

「まあまあ。……実はさあ、ベルナール伯爵の仕事が滞ってるらしいんだよ。しかも、伯爵に催促しても本人不在だし。困るよねー、ちゃんとしてくれないと」

「は……?」

「でも、レーヴェは仕事があるって言われたんでしょ? やっぱり、別れようって言いにくかったんじゃないのー? そもそも、未成年が爵位継続系の仕事ができたら大天才だよ。爵位を継いでない彼女に、本当にメインで仕事やらせていたら大問題だし」


 ダメだ。

 余裕なんてない。不安なものが多すぎる。


 その情報を聞いた俺は、勢い良く立ち上がる。


「……出かけてくる」

「ホイホイ~。僕は、これが終わったら行くよ」

「後は頼んだ」

「僕らの勘違いで終われば良いね。もし、君がフラれただけならアルコールを奢ろう」


 団服の上着を羽織ってそのまま、ラファエルの茶化しを無視して部屋を後にした。

 今回は、奴も俺の意見に賛同してくれるらしい。だから、職務中にも関わらず外出許可をくれたのだろう。

 ……そうだよな。彼女は、平気で嘘をつけるタイプではない。もし、嘘をついているとすればそれは……。


 俺は、あの日ステラ嬢に救われた。本当に救われたんだ。

 だから今度は、彼女が困っているのであれば俺が助けたい。そう思うのは、ワガママなのだろうか。

 どうか。どうか、高熱で寝込んでいるだけでありますように。その見舞いに行く俺でありますように。

 


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