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会いたい



 ステラ嬢の仕事が忙しくなり、1ヶ月。

 たったの1ヶ月なのに、恐ろしく時間の流れが遅い。彼女と過ごした日々は、あっという間だったのに。1ヶ月あっても、秒で過ぎ去ったのに。


 1週間やそこらだと思っていたのが、そもそも甘かった。

 こんなことになるなら、文通でも提案してみれば良かったな。俺の方から送ってみる……いや、仕事の邪魔をしてしまったら申し訳ないからやめておこう。


「レーヴェ、彼女元気?」

「おい、仕事しろ」

「いや、真面目な話。別れたとかない?」

「あるわけないだろう。お前、まだ狙ってんのか?」


 今日も、俺は王宮で仕事をしている。

 どこぞの団長様が積みに積んだ書類の山と格闘して何日が経っただろうか。減るどころか、追加で運ばれてくる書類があるためかどんどん増えていくばかりだ。今日もきっと、徹夜だろう。


 なのに、ラファエルはさっきから雑談ばかりしている。

 天気が良いだの、おやつはチーズクラッカーが良いだの。勝手に言ってろ。でも、ステラ嬢の話題だけは口を挟んでしまった。

 こいつは、俺のことをよくわかっている。


「まさか、狙ってるさ」

「どっちだよ! ……ったく、別れてないよ。彼女から、家の仕事が忙しくなるからしばらく会えないって聞いてるし」

「えー、もしかしてフラれたの?」

「違う! 何だよ、さっきから」


 いやでも、マジで仕事しろ! 俺だって不安だよ、こんな間があけば!


 でも、仕方ないじゃないか。爵位系の仕事なら、他の家の奴が手を出せば違法になるし、そもそも彼女は「手伝って」と言うような性格ではない。むしろ、手伝ったらそれこそ別れを切り出してきそうだ。それほど、彼女は真面目で勤勉で、可愛くて、可愛い。……はあ、会いたい。


「いやさー。さっき僕、休憩行ったじゃん?」

「2時間23分の長ーい休憩な」

「うわ、この人測ってたの!? こわ」

「この量の仕事を置いて休憩してる奴の方が怖いわ!」

「まあ、それは置いといてー」

「……はいはい。休憩行って何」


 俺は、こいつに口では勝てない。というか、勝とうとすれば勝てるだろうが、そういうことに使う労力が勿体無いだろう。

 これで王族だ? 優秀なブレーンだ? ふざけるな! 凡人で良いから、仕事する奴をよこせ!


 とはいえ、ラファエルが優秀なのは認めている。

 剣を握らせれば横に並ぶものは居ないし、判断力もピカイチだ。もちろん異術持ちで、その中でも希少な氷属性攻撃を自由自在に操れる。俺の炎系攻撃異術と相性も良いし……。とにかく冗談抜きで、このサボり癖を直せばだいぶ、いや、かなりマシになるんだ。なのに、こいつときたら……。


「実はさー……うわっ」

「な、なんだ!?」

「ヤダもー、枝毛見つけちゃったー」

「……俺は、お前が嫌だ」


 俺が怒るのも、わからなくないだろう? これに、幼少期の頃から毎日付き合ってんだぞ? 胃潰瘍で倒れたら、80%の原因はこいつだと覚えて置いて欲しい。


 俺は、書類整理をしながらラファエルの話に耳を傾ける。

 早くこれを終わらせて、身体を動かしたい。もちろん、標的は目の前のこいつだ!


「でさー、メアリー嬢に会ったんだよ。ほら、君の親衛隊? ファンクラブ? の会長サン」

「……誰だ?」

「あー、もう! レーヴェは、もう少し自分がモテるって自覚しようよ。レーヴェ大好きっ子の集まりあるじゃん? そこを仕切ってる会長サンだよ! サザール侯爵の長女の!」

「……??? そこに、ステラ嬢は居るのか?」

「居ない! ったく、レーヴェって本当にステラ嬢しか見えてないよねー。ごちそうさまあ」

「それより、なぜ俺が彼女にフラれたのか聞いたんだ?」


 居ないらしい。なんだ、そこに行けば会えると思ったのに。

 期待して書類から目を離してしまったが、……どこを読んでいたかな。なんだかんだ言いつつも、その話が彼女と関係あるらしいから書類に身が入らない。これで、ステラ嬢の「ス」の字も関係なかったらここで乱闘騒ぎでも起こそうか。


 俺の質問にニヤニヤしだしたそいつは、机に肘をついてこちらを見てくる。

 言いたいことは、簡潔に素早く伝えて欲しい。


「んー? メアリー嬢から聞いたんだよ。先日のお茶会でとあるご令嬢が「レオンハルト様から頂いた」ドレスを着て出席したんだって。すーっごい自慢してて、他にも衣服を数点もらったとか? 「まるで彼女ヅラしてるようでしたわ」ってメアリー嬢が不機嫌だったよ」

「……え、じゃあ、彼女は仕事じゃなくて単に俺に会いたくなかっただけか?」

「うわ、顔色の変化すご。レーヴェさー、他の団員がいる時もそうやって表情変えなよ。いつも無表情でムスッとしてるから、みんな怖がってるよー」

「しかし、彼女はフるならちゃんと理由をつけて正直に話してくれるはず。いやでも、お家のことで何か隠し事があったようだし、それ関連か? いや、そもそもお茶会に出席した程度で俺が嫌われたとは確定じゃなくて……」

「……僕の話聞いてないでしょ」


 嘘だろ。

 俺の腕の中で、頬を染めていた彼女が? 俺の言動に一喜一憂して、慌てふためく可愛い彼女が? 可愛くて可愛いあの彼女が??


 いやいや、何を悲観してる? 息抜きにお茶会へ行ったのかもしれないだろう。

 ずっと仕事をし続けているなんて、それこそ身体に悪い。たまには外に出て、他のご令嬢とも交流をした方が良いに決まってる。……その時間を、俺に使って欲しいと言うのはただ単にこっちのわがままだ。彼女を束縛するようなことはしたくない。

 そもそも、その行動=フラれたと言うのは短絡的すぎないか? まさかラファエルのやつ、本当に彼女を狙ってるとか? そうはさせん!


 脳内でグルグルといろんな可能性を考えていると、そもそもの話がおかしいことに気づいた。

 彼女は、そうやって誰かに話すような人物ではないだろ。しかも、お茶会と言えばそういうプレゼントをもらった贈ったという話はあまり歓迎されていないと、妹のクラリスに聞いたことがある。


「……待てよ、ラファエル。彼女が、俺からドレスをもらったと周囲の人に言ったんだよな」

「うんー、そうらしい。どんな言葉で言ったのかは知らないけど、メアリー嬢が話していた言葉は「レオンハルト様から頂いた」だったよー」

「そうか。……そのご令嬢の容姿を聞こうか」

「ふふーん。さすが! でも、聞いたらもっと落ち込むかも?」

「何でも良い。事実なら受け止める」


 と言うことは、やはり容姿がステラ嬢のものではないのか。

 ラファエルも彼女に何度か会っているし、特徴を聞けばわかるだろうから。


 俺は、いつの間にか持っていた書類を手放して、ラファエルの言葉を待っていた。




 

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