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明日があるさ  作者: いぬまた
第六章
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明日があるさ6【第四話】





 綾はその後、さわやかな笑顔を残して明日葉宅を後にし、仕事へと向かって行った。

 明日葉は玄関で綾を見送った後、居間に転がって携帯を弄っていた。食器を片付けた亜笠が隣にやってくる。

 明日葉は何気なく言った。

「お前の元彼めちゃくちゃいい人だな~。大人の男性って感じだ」

「いい人なんです。でも年は明日葉さんより一つ下ですよ」

「え!?」

 衝撃だった。てっきり二、三個上かと思っていた。

「たぶん綾さんも護さんのこと下だと思ってますね、あれは」

 明日葉は携帯を放り出して両手で顔を覆った。

「恥ずかしい……三十路を越して落ち着きがない男で……」

 そんな明日葉の様子も気にせず、亜笠が淡々と続けた。

「綾さんは大手建設会社の社長さんの長男で、下に妹さんがいるんです」

「あー、余裕のある優しいお兄さんって感じだ」

 ということは社長令息なのか、と明日葉はひとりごちた。確かに、派手な容姿の中にも品がある雰囲気だった。

 ふと、亜笠が真剣な顔つきになった。

「厳しいご家庭で――――30歳になったら結婚して実家の家業を継ぐように言われているそうです」

「それ、は……」

 明日葉の脳裏に、一瞬だけ実家の父の姿が過った。

「絶対に周りには言わない、知られない約束で付き合い始めました。それでも僕は幸せでしたけど――――」

 今の亜笠からはまったく想像がつかなかった。

 デートでも手を繋がず、寄り添うことすら許されない関係。触れるのは家の中でだけ。それも、二人っきりの時に。

 どれだけのことを我慢した7年だったのだろうか。明日葉には推し量ることはできなかった。

 明日葉は綾と違い、周りの目や世間一般の常識には非常に興味が薄い。他の人にどう見られても、自分のやりたいようにやる――――というより、そういう生き方しか出来ない人間だった。

 亜笠の行動に何だかんだ言うのも、男同士だから、というよりはただ単に自分が恥ずかしくて嫌だから、というだけだ。明日葉は電車内でいちゃつくカップルに殺意を覚えるタイプの人間だった。

「縁を切られるのが怖いって、いつか話してました」

 明日葉はフンと鼻を鳴らした。

「ノーマルじゃなければ自分の子供じゃないって言う親の方が親じゃないね」

 子供を何だと思ってるんだ。そう言うと、亜笠の目が細くなった。

「綾さんの恋人も、あなたみたいな人だといいんですけどね……」

「えー、ダメだろ。おれなんかじゃ。もっとちゃんとした人じゃないと」

 深い意味などなかった。

 さすがに亜笠の元彼だけあって、綾はいい人だった。おそらく付き合っていた当時もお互いのことを大切にしていたのだろう。喧嘩が原因で別れたと聞いていたが、とてもそうは感じなかった。

 亜笠を渡すことはできないが、亜笠のように綾自身を大切にしてくれる相手が恋人だといいなと、明日葉はそう思った。

 亜笠は何も言わなかった。

「どしたの?」

 視線を向ける。亜笠は唐突に身を乗り出して、床に転がる明日葉の両脇に手をついた。

 そのまま唇を重ねられて、明日葉は目を丸くした。触れるだけの短いキスだった。

 すぐ上にある亜笠の顔を呆然と見つめる。亜笠が目を細めた。

「……そういうところが大好きなんです」

 優しく微笑まれて、明日葉の顔が一気に熱くなった。

「護さん……」

「う……」

 熱っぽく呼ばれて首筋にキスされる。服の中に手が潜り込んできて、明日葉は息を詰めた。下を脱がそうとする亜笠の手を止めて、確認する。

「ちょ、ちょっと、待った……と、隣出かけた?」

「出かけてます」

「窓閉めた?」

「閉まってます」

「…………腰に、あんまり負担かかんない体勢で、お願い……」

「――――はい」

 恥じらいながら言うと、亜笠は深く唇を合わせてきた。明日葉も亜笠の首に手を回した。











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