第2章 ラルフ (2)
首都の広場を埋め尽くす数十万の民衆。その頭上では、サーチライトが作り出した天空の聖堂を思わせる光の柱の中を、巨大な硬式飛行船が悠然と旋回していました。
重低音の振動を伴う軍楽が止むと、演壇に立ったラルフによる演説が始まりました。
ステージ背後には最新鋭のラジオ放送用機材が林立し、その声は電波に乗って瞬時に国中の家庭へと届けられていたのです。
「東の国ではトカゲの細胞と戯れ、古臭い精霊の力に頼っているという。なんと嘆かわしいことか」
ラルフの声調は、冷ややかな嘲笑から、やがて峻烈な確信に満ちた咆哮へと変じていきました。
「我々が必要としているのは、不確かな奇跡ではない。確実な成果だ!膨大な魔力を費やして、たった一人の人間を生き返らせる魔法より、抗生物質のように大勢の命を救う医療こそが、我々が選ぶべきものではないのか!」
まるで計算され尽くしたかのようにも思われる身振り手振りが、聴衆を熱狂の渦へと巻き込んでいきます。
「空飛ぶ絨毯など博物館へ送れ!我々は内燃機関を作り出し、鉄の翼で空を征服したのだ!」
次々と繰り出される扇動的なスローガンに対し、広場は地鳴りのような熱狂と喝采で応えました。
ラルフは、人々の心に潜む科学への劣等感と、科学の恩恵を受けられる優越感を巧みに刺激しました。
魔法が使える特権階級への不満を煽り、万人が扱うことのできる科学技術こそが、民族を至高へと導く力だと説いたのです。
「世界が真に求めているのは科学技術であるということを認めず、いまだに魔法こそ至上と信じて疑わぬ愚かな魔導士どもを一掃せよ!科学の光で、迷信の闇を焼き払うのだ!」
この過激な排外主義は、科学という名の下で行われる冷徹な選別でした。
ラルフは、魔力を持つ者を進化の袋小路に入り込んだ劣等種と定義し、彼らを社会から隔離、排除することで、純粋に科学的な人間のみによる新秩序を構築しようとしたのです。
熱狂する大衆は、その科学的な選民思想こそが自分たちを豊かにすると信じ込まされたのでした。




