第2章 ラルフ (1)
アリスが氷の国で完全なる国家を築き上げてから約二十年。世界地図の西方、かつては芸術と哲学を愛した古い国に、一筋の不穏な旋風が巻き起こっていました。
敗戦の屈辱と天文学的な賠償金、そして世界恐慌による経済破綻。希望を失い、飢えに苦しむ民衆の前に現れたのは、一人の小柄な男でした。
男の名は【ラルフ】。
どん底にいた国民の劣等感を逆手に取り、選民思想と軍国主義を掲げて一気に権力の頂点へと駆け上がりました。
元は売れない風景画家だったというその男は、軍に入隊し、やがて政治の表舞台へと躍り出ることになるのです。
彼には理屈では説明のつかない、悪魔的ともいえる煽動力がありました。拳を振り上げ、唾を飛ばして叫ぶとき、絶望に沈んでいた人々の瞳には、狂信的な光が宿ったと記録されています。
「諸君!我々が貧しいのは、我々が劣っているからではない!我々の誇りを奪い、富を搾取する寄生虫どもがいるからだ!」
ラルフは瞬く間に独裁体制を確立しました。反対派を容赦なく粛清し、秘密警察網を張り巡らせる一方で、道路網の整備や大衆車の普及を推し進め、失業者を劇的に削減してみせたのです。
近隣諸国は、この急速に軍事化する国家を警戒しながらも、ラルフの老獪な外交術と、共産主義を標榜するアリスへの対抗馬という共通の利害関係から、彼の手綱を締めきれずにいました。その隙を突くように、ラルフの軍隊は国境を越えていったのです。
戦車と航空機による電撃戦は、従来の騎士道や魔法戦術を凌駕し、瞬く間に西方の主要都市を支配下に収めていったのでした。




