第7章 カタストロフィー(2)
老魔導師は記者の目を真っ直ぐに見つめました。その瞳には、数世紀分の歴史の重みが宿っているように感じられます。
「ルポライターのあなたを前にして言うのも申し訳ないが、新聞やテレビでさえも真実を伝えてはおらん。というより、真実を伝えていても誇張していたり、都合の悪い事は省いたりしている」
「おっしゃる通りです。スポンサーへの配慮や政治的な圧力、あるいは単にウケるからという理由で。マスメディアが世論を誘導していると感じる時は、私も少なからずあります。時には発信者自身が自覚すら持っていないことだってあるでしょう」
「そういうことだ。情報の発信者自身が情報に操られてしまって、誰も正常な判断などできずにいる。情報、言い換えるならアルサトラに操られた世論にだ」
「携帯端末を手にすれば誰もが情報の発信者となります。発信しようとする行為そのものが、操られているということなのでしょうか?」
「そうではない。問題は『共鳴』だ。例えば、たわいもないつぶやきが発信者の感知しないところで連鎖し、憎悪を増幅させ、世論を動かすまでになることがある。アルサトラはそうして情報を束ね、好む形に養殖して人々の判断を覆すほどの力に育てているのだ」
「養殖とは、情報を育てるんですか?」
「いかにも。個々の発信が連鎖し、増幅され、やがて人々の判断を覆すほどの力を持つに至るだろう。かつては一握りの権力者が情報を操っていたが、今や情報そのものが自律的に動き、群衆を導く主体になってしまったのだ」
老魔導師の言葉は静かに、しかし確かな危機感を帯びて記者の胸に落ちていきました。




