第6章 アルサトラ (5)
「アルサトラを倒す方法はないのでしょうか?」
記者は食い下がりましたが、老魔導師は寂しげな笑みを浮かべるだけでした。
「精霊体である情報を倒す方法などあろうはずがない。肉体が滅びれば無に帰すというのは、物理的な生者の理屈に過ぎないのだ。そして情報は消えない。精霊も、人の想いも、一度この世に放たれれば消え失せることはない。この社会そのものが失われるまではな」
「それでも、あえてお伺いします。せめて封じ込める手立てくらいは、ないものでしょうか」
記者のさらなる問いに、老魔導師は答えました。
「そうだな。例えばドラゴンのように、とてつもなく強い精神力を持つ存在ならば、あるいは契約によって己の内に封じ込めてしまうことが可能かもしれない。しかし普通の人間では難しいだろうな」
「そうなのですか」
「危険というものに対して、つい魅力を感じてしまうのが人間だからだ。我々は自ら進んでスマートフォンの画面を覗き込み、あの悪魔に魂を差し出し続けているのだから」
記者はテーブルの上に置かれたICレコーダーと自分のスマートフォンを見つめました。
「封印は一時の策に過ぎず、契約は常に代償を伴う。アルサトラは契約を通じて人の欲望を増幅し、やがてその代償を回収するだろう。奴の脅威に気が付いている我々には警告することしかできない。だが警告はしばしば無視されるのだ」
記者は深く息を吐き、自分ならその誘惑に耐えうるだろうかと、答えなど分かり切っている質問を、あらためて自身に問い掛けてみたのでした。




