第6章 アルサトラ (3)
「『アルサトラ』とは、我々の古い言葉で『情報を司る者』という意味だ。あなたがた東洋の国においては『コトダマ』とか『ヤオヨロズ』などと言うらしいな。言葉や情報そのものに霊力が宿るという考え方だ」
「言葉に宿る霊力。それが今までとは比べ物にならないくらい強い力を持つようになった、と?」
「その通り。電子の翼を得て自由に飛び回る言葉。それが電脳空間においては、無限とも思われるほどの熱量を持つに至ったと言っても過言ではないだろう」
「そんな アルサトラの狙いとは……一体何なのですか?」
記者は不安に満ちた瞳を真っすぐ老魔導師に向けながら問い返しました。
「君は、堕天使ルシファーの話をご存じか?」
「いえ、名前くらいしか……」
「ルシファーは、もともとは神に一番近いところで仕える最上級の熾天使だったのだ。それが神に逆らい、堕落して地獄の王サタンとなった。ただ、その時謀反に加担し、ルシファーと共に堕ちた天使たちも決して少なくはなかったのだ。アルサトラもその中の一人で、情報を司る天使だったのだ」
老魔導士は、飲み頃になった紅茶を口に含みました。鼻から抜けるその香りが、会話の緊張感を幾分和らげてくれたように感じました。
「奴らは人間を誘惑するとき、決して『悪事を働け』とは言わない。『正義を執行せよ』と囁くのだ。正義と真実という剣を掲げて情報を操り、自由と権利という大義の下に人々の欲望を解放する。これがアルサトラの、すなわちマスメディアの本質だ」
「欲望の解放、マスメディアの本質……」




