第5章 シンディ (1)
エディ暗殺から約二十年が過ぎたある朝、世界中の通信社が震える手でテレタイプを打ち鳴らしました。
「アリス、死去」そのニュースは、核の爆発とは全く異なる衝撃を持って、静かに、しかし確実に世界を揺るがしたのでした。
東の大国を半世紀以上にわたって支配し、今後も続くと考えられていた絶対的独裁者。竜種としての強靭な生命力を有する彼女の寿命は、本来ならば数百年、あるいは不死に近いとさえ信じられていたのです。
死因については、政府より心不全と発表されましたが、まことしやかに囁かれる噂によれば、毒殺ではないかというのが有力な説だということでした。
もっとも、彼女を支えていた精霊たちが、周囲の異変に気が付かないはずはありません。無理な工業化と環境汚染によって国土は荒れ果て、精霊たちが彼女の声に応えなくなっていた。実際にはそれが真相に近いのかもしれません。
人間の何倍もあるドラゴンの体躯ですが、国内最高の魔導師たちによって永久保存の処置が施されました。
棺の中に収められたアリスの背には、あの神々しいプラチナの義翼はありません。しかし、室内の明かりを反射して輝き続ける美しい鱗は、彼女の栄光が決して夢幻ではなかったことを物語っているようでした。
ただ、彼女の死は、魔法と恐怖によって維持された時代の終焉というだけではなく、新たな時代の幕開けを告げるものでもありました。
人々は、絶対的な守護者を失った不安と、ようやく管理から解放されるという密かな期待が混ざり合った、制御不能な時代の中に放り出されたのです。
アリスの国と、そこに連なる東側諸国の政治経済は一気に不安定化し、世界は再び大きな転換点を迎えることとなったのでした。




