第3章 エディ (3)
かくして大統領に就任したエディでしたが、彼自身は父ジョージとアルサトラの間に密約があったことなど知る由もありません。
就任式の日、彼は晴れ渡る空の下で堂々と宣誓し、国民は歓喜の声を上げました。
しかし、彼の胸の内には不思議な空虚さがありました。自分がなぜここに立っているのか、どこまでが自分の力で、どこからが他者の思惑なのか、その境界が曖昧だったのです。
当然のことながら、父がどれほどの代償を払ってまで自分をこの地位に押し上げたのか、彼は想像すらしていなかったのです。
エディは本気で国を良くしようと考えていましたし、純粋に理想実現に燃えていました。
しかし、世界情勢は彼に安息を与えたりはしません。東の大国を支配するアリスとの対立は、大戦を経てなお続いていたのです。
鉄のカーテンの向こう側で、アリスは冷ややかにこの状況を見ていました。
彼女の卓越した知能は、西側の急速なメディア発達の背後に、あのアルサトラの思惑が見え隠れすることに気付いていたのです。
「西の若造は、操り人形に過ぎないわ」
アリスは情報局の資料を精査しながら、独り静かに呟きました。
彼女は情報を統制することで国の秩序を守ってきましたが、アルサトラが目指しているのは、情報を操ることで人々を扇動し、混沌へ導くことだと看破していたのです。
アリスの心の中には、長い歴史の中で幾度となく繰り返されてきた魔力の均衡が、再び崩れようとしていることへの恐れよりも、むしろ深い憂いが抱かれていました。
アリスとエディ。あるいはアリスとアルサトラ。
二つの巨大な力の睨み合いは、世界を核戦争の瀬戸際にまで追い込んでいくことになるのです。




