第3章 エディ (1)
それから十数年が経った頃、ラルフの旧帝国から大海を隔てた西方の新大陸には、世界経済の中枢として比類なき繁栄を誇る巨大都市がそびえ立っていました。
摩天楼が林立し、昼夜を問わず光が消えることのないこの都市は、魔法と科学が複雑に絡み合い、世界の潮流を左右する力を秘めています。
その一角にある高層ビルの一室で、一人の男が深い闇と対峙しているところでした。
紫煙をくゆらせながら、眼下の街を睨んでいる男の名は【ジョージ】。
巨万の富を持つ実業家であり、政界の調整役 としても名を馳せた彼は、強烈な野心を抱く人物でした。
「私は王にはなれなかった。だが、王を作ることはできる」
移民の子孫であり、差別や格差と闘いながらのし上がってきた彼が欲したのは、金ではなく、この国の頂点、すなわち大統領の座だったのです。
その夢を叶えるため、彼は目の前の何者かと密約を交わしていました。
部屋の空気がわずかに震え、差し込む西日が歪むように揺らめいたのを感じた後、ジョージは静かに息を吸うと、震える声を押さえながら願いを口にしました。
「私の夢は息子に託します。どうか彼を大統領の座へと導いてほしい」
その瞬間、部屋の温度がわずかに下がり、耳元で囁くような声が響きました。
『望みは叶えよう。ただし、代償は払ってもらう』
ジョージは目を閉じ、ゆっくりと頷きました。彼はすでに覚悟していたのです。自らが果たせなかった夢を息子に託すためなら、どれほどの代償であろうと受け入れると。
『条件は一つだ。より多くの観衆を用意せよ』
「観衆?」
『そうだ。大衆の目と耳を、私に差し出せ』
「一体どういう意味だ?」
『必要なのはイメージだ、ジョージ。私に任せておけ』
ジョージはその意味を深く考えず、契約書代わりのグラスを空けました。
彼は、自由奔放に育った自らの息子【エディ】に、一族の悲願を託そうと決めたのです。




