第2章 ラルフ (5)
戦局はもはや完全に逆転していました。西からは連合軍が、東からはアリスの軍勢が、怒涛の勢いで首都へと迫っています。
かつての帝都の栄華は見る影もありません。街は連日の猛爆によって瓦礫の山と化し、誇り高き帝国は崩壊の時を迎えていたのでした。
総統官邸の地下深くに作られた強固なバンカー。装飾を排したむき出しのコンクリート壁に囲まれた部屋で、ラルフはデスクに向かって一人、呻き声を上げていたと伝えられています。
時折、震える両手を演説の際のように広げながら、虚空に向かって叫ぶ姿が目撃されていました。
「アルサトラ!いるのだろう!?答えろ!まだ秘策があるはずだ!」
何度問い掛けようと、返事はありません。
常に傍らに感じていたあの気配、自分を天才だと全肯定し続けてくれたあの存在は、きれいに消え失せていました。
「……見捨てたのか、この私を?見捨てられたのか、この私は!」
その時になって、ようやくラルフは悟ったのかもしれません。
自分は選ばれた英雄などではなかったという現実、そして、言葉巧みな悪魔の、ただの使い捨ての駒に過ぎなかったのだという事実についてです。
すべてを失った時、人は何を思うのでしょう。
彼はこめかみに拳銃の冷たい銃口を当てました。
「だが、私の意志は残る……」
後に制圧された地下壕で発見された彼の遺体は、側近によってガソリンで焼かれており、死の詳細は今なお多くの謎に包まれたままとなっています。
アルサトラという名の悪魔が、彼から何を奪い去ったのかを知る者は、誰一人としていなかったのでした。




