第2章 ラルフ (4)
アルサトラの力を盲信していたラルフにとって、世界のすべては己の計算通りに動いているように思われました。
「泥足の巨人を蹴り倒せ」
彼が放った軍団は電撃的に国境を越え、旧態依然とした魔法防御網を科学兵器で粉砕していきました。
勢力のさらなる拡大に、疑いの余地などないはずでした。
しかし、彼が東方に位置するアリスの統治国家へと駒を進めたこの決断こそが、彼の栄光に終止符を打つ決定的な要因となってしまったのです。
アリスの国は、ラルフの想像を超えた知性の要塞でした。
彼女は精霊たちのネットワークを使い、ラルフの軍の進路、詳細な補給状況、果ては末端の兵士たちの士気に至るまで、すべてを把握し尽くしていたのです。
アリスはあえて正面衝突を避け、ラルフの軍を広大な寒冷の奥地へと深く誘い込みました。
そこは、かつて彼女が生まれた氷の精の聖域であり、科学技術が最も苦手とする、物理法則さえ凍りつく過酷な環境だったのです。
退路を断たれ、補給路を雪に閉ざされたラルフの軍は、戦う前に自然の猛威によって壊滅していきました。
戦車は燃料が凍結して動かなくなり、兵士たちは飢えと寒さで倒れていきました。
事態の急変に狼狽したラルフは、いつものようにアルサトラに助言を求めました。
けれども、それまで常に甘美な回答を返していた声は、もはや意味を成さない風切り音のような虚ろな響きへと変じ、やがて完全に途絶えてしまったのでした。
アルサトラは、利用価値が無くなったと判断した駒を放棄するように、別れすら告げることなくラルフの傍らを去っていったのです。
影の加護を失った独裁者は、暗闇の中でわめくだけの、ただの無力な人間へと立ち返りました。
補給路を絶たれ、飢えと寒さに震える兵士たちは、ホワイトドラゴンの幻影におびえながら、吹き荒れる雪の中で次々と息絶えていったのでした。




