測定器に触ってないのに、なぜか壊れました
朝。
起きている。
動く理由は、できればない。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
「ユウトー!来た来た来た!」
「来てない」
ドアが開く。ミリアの声が一段階高い。
……来てる。
「ギルドの測定器、ほんとに来たの!」
「帰ってもらって」
「もう設置してる!」
早い。
嫌な予感が的中する速度が速すぎる。
「お兄ちゃん、すごい大きいのだよー」
「見ない」
ルナが窓から覗く。
見ない。絶対に見ない。
「ユウト、逃げても無駄よ」
「逃げてない」
セリスが腕を組む。
「すでに村人全員集まってるわ」
「帰る」
「家の外よ」
詰んだ。
「師匠、歴史的瞬間です!」
「違う」
リィナの目が輝いている。やめてほしい。
「一瞬で終わるから!」
「一瞬が長い」
だが、そのとき。
【生活最適化:最短ルートで完了可能】
「……触らない?」
条件を出した。
「触らなくていい!」
レインの声が外から飛ぶ。
「非接触型だ!」
「それなら」
立ち上がる。
今日は流れが悪いが、最小ダメージで済ませる。
広場。
人が多い。
見ないようにしても視線が刺さる。
「来たぞ……!」
「本当に来た……!」
やめてほしい。
中央に、それはあった。
大きな水晶のような装置。台座に固定され、淡く光っている。
「これが測定器だ」
レインが説明する。
「近くに立つだけで、魔力・身体能力・潜在値を計測する」
「立つだけ」
それならいい。
「では、ここに」
指定された位置に立つ。
何もしない。
何もしたくない。
【生活最適化:環境最適化】
風が、ほんの少し整う。
空気が静まる。
それだけ。
水晶が、かすかに光る。
「……反応した」
レインが小さくつぶやく。
数値が浮かび上がる。
最初は、普通。
「魔力……中程度……?」
ざわつきが少し収まる。
よかった。普通だ。
だが次の瞬間。
【無意識スキル発動:最適化】
光が、強くなった。
「……え?」
数値が動く。
ゆっくり。
そして。
止まらない。
「ちょっと待て……」
レインの声が変わる。
「魔力値……上昇中……?」
ぐん、と一段上がる。
「まだ上がる……!?」
さらに上がる。
「おい、これ制限は……!」
「ある!あるはずだ!」
水晶の光が、白から金に変わる。
嫌な音がした。
ピシ、と。
「……ひび?」
セリスが目を細める。
「やばい」
ミリアが一歩下がる。
「師匠、すごいです!」
「違う」
違うのに、止まらない。
【誤解誘導が発動しました】
数値が、跳ねた。
「測定限界……超過……?」
レインが絶句する。
次の瞬間。
パキン。
水晶に、大きなひびが入った。
「え」
そして。
バンッ。
光が弾けた。
水晶が、静かに砕ける。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
全員が固まっている。
「知らない」
先に言った。
「壊れた……?」
「壊れたな……」
「触ってないよね……?」
触ってない。
立ってただけだ。
「……ありえない」
レインがゆっくり言う。
「非接触で、しかもこの距離で……」
セリスが小さく息を吐く。
「規格外どころじゃないわね」
「違う」
違うのに。
「すげえ……!」
「なんだあれ……!」
「伝説級だぞ……!」
やめて。
「ユウトくん……君は……」
レインが真剣な顔で言う。
「今すぐ街に来るべきだ」
「行かない」
即答。
「いや、このままでは――」
「行かない」
ぶれない。
ミリアが笑う。
「でしょ?」
セリスも頷く。
「予想通りね」
リィナは輝いている。
「さすが師匠!」
「違う」
だが、レインは諦めていない。
「……分かった」
一歩引いた。
「では、こちらが来よう」
「来なくていい」
だがもう遅い。
「次は“本部の測定官”を連れてくる」
「来なくていい」
終わった。
「……帰る」
俺はそのまま踵を返す。
もう限界だ。
家に戻る。
布団に倒れる。
「……疲れた」
本当に、何もしていないのに。
「ユウト、すごかったね」
「すごくない」
ルナが笑う。
「お兄ちゃん、ピカピカだった」
「知らない」
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
何もしないほど、全部うまくいく。
「寝る」
それが一番、効率がいい。
【次回:なぜか本部の人たちが来て、でも家から出ません】




