弟子入りしたいらしいけど、何も教えません
朝。
起きてはいるが、動く予定はない。
布団の上で呼吸だけしている。これが最も効率がいい。もはや哲学だ。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
「ユウトー!大変!」
「大変じゃない」
ドアが開く。ミリアだ。最近は“ノック”という概念が完全に消えている。
「なんか来てる!」
「来てない」
「来てるの!」
嫌な予感しかしない。
「お兄ちゃん、外に人いるよー」
「見ない」
ルナが窓の方を指さす。見ない。絶対に見ない。
「ユウト、来なさい」
「行かない」
セリスが腕を組んで立っている。完全に“連れていく顔”だ。
「三人がかりやめて」
「一人でも行かせるけど?」
「それは怖い」
結局、外に出た。
俺の意思ではない。
家の前。
そこに、一人の少女が立っていた。
年齢は俺より少し上くらい。茶色の髪を短くまとめていて、姿勢がやけにいい。
そして。
目がキラキラしている。
危険だ。
「あなたが、ユウト様ですね!」
「違う」
「違わないですよね!?」
「違う可能性はある」
勢いが強い。
「私はリィナと申します!」
「そう」
「弟子にしてください!」
「しない」
即答。
「お願いします!」
「しない」
「一度でいいので!」
「一度もだめ」
ミリアが小声で言う。
「ねえ、何したのあなた」
「何もしてない」
セリスも頷く。
「でしょうね」
リィナはぐっと拳を握った。
「昨日の一撃、見ました!」
「違う」
「風だけで魔物を倒すなんて……!」
「違う」
また誤解だ。
【誤解誘導が発動しました】
「やはり、奥義を隠しているのですね!」
「隠してない」
会話が成立していない。
「私はもっと強くなりたいんです!」
「なればいい」
「だから教えてください!」
「教えない」
完璧な論理だと思う。
「……では」
リィナが一歩近づく。
「見ているだけでも構いません!」
「見せない」
逃げ場がない。
「ユウト、いいじゃない」
ミリアが楽しそうに言う。
「にぎやかになるし」
「すでににぎやか」
これ以上は増やしたくない。
「お兄ちゃん、おねがい聞いてあげたら?」
「聞かない」
ルナまで参戦してきた。
「……一つだけ」
セリスが静かに言う。
「条件を出しなさい」
「条件?」
面倒だが、拒否よりはマシかもしれない。
「……何もしない」
「はい!」
即答された。
「何も教えない」
「はい!」
大丈夫かこの子。
「話しかけない」
「……はい!」
ちょっと遅れた。
「じゃあそれで」
「ありがとうございます!」
決まってしまった。
なぜだ。
その後。
俺はいつも通り、何もしない。
家の前の木陰で座る。
風がいい感じに通る。最高だ。
数メートル離れた場所で、リィナが立っている。
じっとこちらを見ている。
怖い。
「……何してるの」
「観察です!」
「やめて」
やめないらしい。
「ユウトが動かないと、あの子も動かないんだけど」
ミリアが苦笑する。
「いいこと」
「いいの?」
セリスが腕を組む。
「……無駄がないわね」
「ない」
時間が流れる。
何も起きない。
最高だ。
そのとき。
風が少し変わった。
【生活最適化:周囲環境の調整】
木の葉が揺れる。
日差しが柔らかくなる。
地面の空気が整う。
……それだけ。
「……今の」
リィナが小さくつぶやく。
「見えました」
「何が」
「流れです」
「違う」
違うが、もう止まらない。
「なるほど……動かないことで、すべてを制御している……」
「してない」
なぜそうなる。
「すごい……」
リィナの目がさらに輝く。
「極限まで無駄を削ぎ落とした動き……いや、“動かない動き”……!」
「動いてないだけ」
ミリアが笑いをこらえている。
「ちょっと、面白いことになってきたね」
「ならない」
セリスも頷く。
「理論としては……ありえなくもない」
「ない」
ルナは拍手している。
「お兄ちゃんすごーい!」
「すごくない」
だが。
数分後。
「……できました」
リィナが言った。
「何が」
彼女の足元の小石が、ふわりと浮いて――落ちた。
「……偶然です!」
「そう」
だが本人は確信している顔だ。
「師匠のおかげです!」
「違う」
何もしていない。
本当に何もしていないのに。
【誤解誘導が発動しました】
「やはり……!」
増えた。
完全に増えた。
「……帰る」
俺は立ち上がる。
限界だ。
「待ってください師匠!」
「師匠じゃない」
逃げるように家に戻る。
布団に倒れる。
「……疲れた」
「何もしてないでしょ」
「それが疲れる」
【省エネ成長:大幅上昇】
「まあいい」
何もしないほど、全部うまくいく。
それでいい。
「寝る」
それが一番、効率がいい。
【次回:なぜか噂が広がって、村の外から人が来ます】




