交渉してないのに、なぜか得しました
昼。
起きてはいるが、動いてはいない。
窓際で座っているだけ。風がいい感じに入ってくる。これ以上の行動は不要だ。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
「ユウトー!大変!」
「大変じゃない」
ドアが開く。
ミリアが息を切らしている。
「行商人が来てるの!」
「来てる」
「すごい人なの!」
「すごくない」
「話聞いて!」
だが興味はない。
行商人が来ようが来まいが、俺の生活は変わらない。
「珍しい調味料とか、道具とか持ってるの!」
「いらない」
「料理に使えるかもよ!」
「立つだけでいい」
「そうだけど!」
セリスも後ろから入ってくる。
「行きなさい」
「行かない」
「情報は大事よ」
「いらない」
「……本当に欲がないのね」
正しい。
欲を持つと面倒が増える。
「お兄ちゃん、行こ?」
「近い?」
「すぐそこ!」
「……じゃあ行く」
ルナはずるい。
広場。
すでに人だかりができている。
中央には、大きな荷車と一人の男。
年齢は三十代くらいか。目がやけに鋭い。
「お、噂の子か?」
「違う」
「話が早いな」
「違う」
なぜか話が通じていない。
「俺はガルド。あちこち回ってる行商人だ」
「そう」
「君のこと、聞いてるぞ」
「聞かなくていい」
ガルドはニヤリと笑った。
「何もしてないのに全部うまくいくんだって?」
「違う」
「いいねえ、その感じ」
「よくない」
嫌なタイプだ。
こういう人は話が長い。
「で、何か買うか?」
「買わない」
「即答かよ」
「必要ない」
だが、ガルドは引かない。
「なら、交換はどうだ?」
「しない」
「話くらい聞けよ」
面倒だ。
だが、ここで終わらないのが問題だ。
【誤解誘導が発動しました】
「……なるほど」
ガルドが顎に手を当てる。
「最初から“見極めてる”わけか」
「違う」
また始まった。
「安い話には乗らない、と」
「乗らない」
「さすがだな」
「違う」
勝手に評価が積み上がる。
何もしてないのに。
「じゃあこれだ」
ガルドが一つの袋を取り出す。
「珍しい香草だ。普通は高いが……」
「いらない」
「まだ何も言ってない!」
強い拒否。
「だが、これは特別だ」
「いらない」
「お前、商売向いてないぞ」
「向いてない」
正しい評価だ。
「じゃあこうしよう」
ガルドが少しだけ真面目な顔になる。
「君、料理できるんだろ?」
「してない」
「でも美味いんだろ?」
「知らない」
セリスが横から口を挟む。
「事実よ」
「やめて」
余計な証言。
「なら、その料理を少し見せてくれ」
「見せない」
「見せるだけでいい」
「それが面倒」
完璧な拒否。
……のはずだった。
【生活最適化:最小労力で最大利益が見込まれます】
「……具体的に?」
つい聞いてしまった。
危険だ。
「ちょっと鍋の前に立つだけでいい」
「それは立つ」
条件が軽い。
これは罠だ。
だが、体はすでに動いていた。
即席の調理台。
材料はガルドの持ってきたもの。
俺はただ、前に立つ。
【調理環境:最適化】
風が通る。火が安定する。匂いが整う。
……それだけ。
「……」
ガルドが無言で見ている。
「できた」
「早すぎるだろ」
ミリアが味見する。
一瞬で表情が変わった。
「やばい」
「やばくない」
セリスも続く。
無言。
そして小さく息を吐く。
「……売れる」
「売らない」
ルナはにこにこしている。
「おいしー!」
ガルドがゆっくり笑った。
「決まりだな」
「何が」
「これと交換だ」
さっきの香草の袋が差し出される。
「いらない」
「いる」
なぜか確定した。
【誤解誘導が発動しました】
「対価としては安すぎるくらいだ」
「いらない」
「いや受け取れ」
「いらない」
押し付けられた。
「……面倒」
だが、受け取った瞬間。
【生活最適化:価値の最大化】
袋から、ふわりといい香りがした。
明らかに、普通の香草じゃない。
「これ、かなり貴重よ」
セリスが目を細める。
「……そうなの?」
「ええ。普通ならこんな値段じゃ手に入らない」
ガルドが笑う。
「いい取引だったろ?」
「してない」
「してるって」
していない。
だが結果だけ見ると、得している。
「また来るぞ、ユウト」
「来なくていい」
ガルドは去っていった。
満足そうに。
「……なんでこうなる」
何もしていないのに、物が増える。
評価も増える。
「ねえユウト」
「なに」
「これ、また料理しようね」
「しない」
「立つだけでいいから!」
「それは立つ」
いけない流れだ。
家に戻る。
布団に倒れる。
「……疲れた」
「何もしてないでしょ」
「それが疲れる」
【省エネ成長:上昇】
「まあいい」
何もしないほど、うまくいく。
それでいい。
「寝る」
それが一番、効率がいい。
【次回:なぜか弟子志願が来て、でも何も教えません】




