料理してないのに、なぜか伝説の味になりました
夕方。
眠い。
というか、ずっと眠い。
布団に戻りたいが、なぜか戻れない。
「ユウト、ちょっと手伝って」
「無理」
「即答やめて」
ミリアが台所で腕を組んでいる。鍋からは、まあまあそれっぽい匂いがする。
「なんで俺」
「人手が足りないの」
「足りてる」
「足りてないの!」
俺は戸口にもたれたまま動かない。これが最も効率がいい姿勢だ。
「お兄ちゃんもやろー?」
「見てる」
「やるとは」
「見守ること」
ルナが首をかしげる。正しい反応だ。
「……はあ。じゃあいい、味見だけして」
「それなら」
それならできる。動かなくていいし。
椀を渡される。スープ。見た目は普通。匂いも普通。
ひと口。
【生活最適化:味覚補正を適用します】
「……うまいな」
「ほんと!?」
「いつもより、ちょっと」
実際、ちょっとだけ整っている。塩気の角が取れて、妙にまとまりがいい。
「やった!やっぱり私の腕ね!」
「違うと思う」
セリスが横から覗き込む。
「貸して」
ひと口。
ぴたりと動きが止まった。
「……なにこれ」
「スープ」
「それは見れば分かる」
もう一口。今度はゆっくり味わっている。
「素材は普通……火加減も普通……なのに、バランスが異常」
「異常はやめて」
俺は椀を返す。
「もういい?」
「待って。もう一回」
ミリアが別の椀を差し出す。
「同じ鍋からよ?」
「違うかもしれない」
「なんで!?」
仕方なくもう一口。
【無意識スキル発動:微調整】
「……さっきより、少し甘い」
「えっ」
ミリアが自分でも飲む。
「ほんとだ……?」
「どういうこと?」
セリスが鍋を覗き込み、かき混ぜ、味見する。首をひねる。
「鍋は変わってない。けど、あんたが触ると味が動く」
「触ってない」
「じゃあ何で変わるのよ」
「知らない」
知らないのに変わる。理想的だ。
「ねえユウト、これお願い」
「無理」
「鍋の前に立つだけでいいから」
「それは立つ」
「立って!」
結局、鍋の前に立たされた。
何もしない。何もする気もない。
【生活最適化:調理環境を最適化します】
窓から入る風が少し変わる。火の揺れが穏やかになる。水面が静かに整う。
……それだけ。
「……今、何かした?」
「してない」
ミリアが恐る恐る味見する。
目が見開かれた。
「え、待って。なにこれ」
「スープ」
「さっきと別物なんだけど!?」
ルナも飲む。
「おいしー!」
分かりやすい。
セリスは無言で三口続けたあと、ため息をついた。
「認めたくないけど、これは……おかしい」
「おかしくない」
「おかしいのよ」
鍋の前に立っているだけで味が整う。
立つだけ。最高だ。
「ユウト、そのまま。動かないで」
「動かないのは得意」
そのまま数分。
俺は壁を眺めている。鍋は勝手にいい感じになる。
【省エネ成長:上昇】
「成長してるし」
「何が?」
「なんでもない」
やがて、食卓。
並んだ皿はどれも見た目は普通。だが、匂いが妙にいい。
「いただきます!」
「いただきます」
一斉に口へ運ぶ。
静寂。
そして。
「……なにこれ」
「おいしい……」
「信じられない」
三者三様の反応だが、結論は同じらしい。
「ユウトくん、これ売れるぞ!」
いつの間にか村のおじさんがいた。嗅ぎつけるのが早い。
「売らない」
「なんでだ!」
「面倒」
大事だ。ここはぶらさない。
「でも評判になったら……!」
「ならない」
【誤解誘導が発動しました】
「なるだろこれは!」
「なるわね」
「なるねー!」
三方向から肯定された。
やめてほしい。
「ねえユウト」
セリスが真面目な顔で言う。
「これ、再現できる?」
「しない」
「できるかどうかを聞いてるの」
「しない」
「できるのね」
「違う」
会話が曲がっている。
「じゃあ明日、もう一回作ろう!」
「作らない」
「立つだけでいいから!」
「それは立つ」
条件が軽いと、つい受けてしまう。
いけない流れだ。
「決まりね!」
「決まってない」
しかし、もう決まっている空気だった。
食後。
布団へ直行。
「……疲れた」
「何もしてないでしょ」
「それが疲れる」
目を閉じる。
外では「うまかった」「すごい」とかいう声が飛んでいる。
たぶん俺のことだ。
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
やはりこれだ。
何もしないほど、全部うまくいく。
「寝る」
それが一番、効率がいい。
【次回:なぜか行商人に絡まれて、でも交渉せずに得します】




