依頼を受けたはずなのに、気づいたら終わってました
朝。
起きたくない。
というか、起きてはいるが動きたくない。
布団の中で呼吸だけしていると、これが最も効率のいい状態なのではないかという確信がある。
実際、強くなっている気がするし。
【省エネ成長:効率上昇】
「ほらやっぱり」
「ユウト!起きなさい!」
「寝てる」
「起きてるでしょ!」
ドアが開く。
ミリアだ。今日も元気すぎる。
最近はノックすらしない。文化が壊れている。
「今日は依頼あるから」
「ない」
「あるの!」
「受けてない」
「今から受けるの!」
「受けない」
完璧な防御。
だがミリアは引かない。
「村の外れに魔物が出たの!」
「昨日も出た」
「今日はちょっと強いの!」
「帰る」
「まだ行ってない!」
会話が無駄に高速で回る。
だがここで問題が一つ。
【生活最適化:早期解決が推奨されます】
「余計なこと言うな」
「なに?」
「いや、なんでもない」
嫌な予感しかしない。
「お兄ちゃん、行こ?」
ルナが袖を引く。
この子はずるい。断りづらい。
「……近い?」
「近いよ!」
「すぐ終わる?」
「終わらせる!」
ミリアが自信満々に言う。
その根拠はどこから来るのか。
「……じゃあ行く」
「やった!」
「奇跡!」
「お兄ちゃんが動いた!」
騒がしい。
ただ歩くだけでイベント扱いされている。
外に出ると、すでにセリスが待っていた。
腕を組んで、こちらをじっと見ている。
「遅い」
「来てない」
「今来たの」
「じゃあ同じ」
意味のない会話が成立してしまった。
「で、どこ?」
「森の入口よ」
「遠い」
「すぐそこ!」
「精神的に遠い」
今日も平和に進まない。
だが、結局は歩くことになった。
俺の意思ではない。
【生活最適化:移動開始】
「ほんと勝手だな」
森の入口。
空気が少しだけ重い。
村の人たちが遠巻きに見ている。
「ユウトくん、頼んだぞ!」
「頼まれてない」
やめてほしい。
期待値が勝手に上がっている。
「いるわね」
ミリアが指差す。
そこには、少し大きめの魔物。
昨日よりは確かに強そうだ。
「……帰る」
「ダメ!」
「まだ何もしてない!」
だが、次の瞬間。
【自動最適化:危険排除】
「やめろって」
風が吹いた。
それだけだった。
ただの、少し強い風。
そのはずなのに。
魔物は、なぜかその場でひっくり返り、
地面に叩きつけられて――動かなくなった。
「……え?」
「……は?」
「……今の何?」
三人の声が重なる。
「知らない」
「いや絶対何かしたでしょ!?」
「してない」
本当にしていない。
ただ立っていただけだ。
【誤解誘導が発動しました】
「……見えたわ」
セリスが静かに言う。
「何が」
「風を操った」
「違う」
「無詠唱で」
「違う」
「しかも極小範囲制御」
「違う」
全部違う。
だが止まらない。
「やっぱり……」
ミリアが震える声で言う。
「やばい人だ」
「やばくない」
遠くで見ていた村人たちがざわめく。
「すげえ……!」
「一瞬だったぞ……!」
「やっぱり只者じゃない……!」
「やめて」
帰りたい。
すぐにでも帰りたい。
「終わったし、帰る」
「早い!」
「もうちょっと余韻とかないの!?」
「いらない」
依頼は終わった。
体感時間、数秒。
理想的すぎる。
「ユウトくん、ありがとう!」
「何もしてない」
「またまた!」
【誤解誘導が発動しました】
「やっぱり謙虚だな!」
「違う」
違うのに、評価だけが上がる。
どういう仕組みだ。
帰り道。
「ねえユウト」
「なに」
「今の、本当に無意識?」
「そう」
「……怖い」
セリスが真顔で言う。
「でも」
ミリアが笑う。
「楽でしょ?」
「楽」
それが全てだ。
「じゃあまた明日も頼むね!」
「頼まないで」
断ったはずなのに、なぜか予定に入っている気がする。
家に戻る。
布団に倒れる。
「……やっぱりこれだな」
【省エネ成長:大幅上昇】
「完璧」
俺は目を閉じた。
外ではまだ誰かが騒いでいる。
たぶん俺のことだ。
だが関係ない。
「寝る」
それが一番、効率がいい。
【次回:なぜか料理をすることになり、でも何もしないのに伝説になります】




