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前世社畜の俺、スローライフを望んだのに気づけばステータスだけが勝手にカンストしてる件  作者: ローナ


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19/26

なぜか宗教っぽいものができ始めていますが、関係ありません

 朝。


 起きている。


 目は閉じている。


 これは寝ている。


 ……はずだが、最近は起きている時間のほうが長い気もする。


 だが定義がすべてだ。


 閉じていれば寝ている。


【省エネ成長:安定上昇】


「完璧」


 外が静かだ。


 静かすぎる。


 昨日までの“賑やかな静寂”ではなく、何かを待っているような静けさ。


 風はある。


 だが音が整いすぎている。


 均一。


 まるで、誰かが“音量を揃えた”みたいに。


「ユウトー……」


「いない」


 ドアの向こう、ミリアの声。


 今日はやけに慎重だ。


「いるでしょ」


「いない」


 開く。


「……来てる」


「来てない」


 短い応酬。


 だが、いつもよりゆっくりだ。


「ちょっと、見てほしいものがある」


「見ない」


 反射で答える。


「外」


「見ない」


 セリスが後ろから入ってくる。


「今回は“見ない”が通らないかも」


「通す」


 通したい。


「……増えすぎたわ」


 嫌な言葉だ。


 “増えた”はだいたい良くない。


「何が」


 聞いてしまった。


 ミリアが一瞬だけ言葉を選ぶ。


「人……かな」


「帰る」


 まだ外に出ていないのに帰りたい。


 ルナが窓のほうで小さく声を上げる。


「お兄ちゃん、白いのいっぱいある」


「見ない」


 白いのはだいたい良くない。


「師匠……ついに……!」


「違う」


 リィナの震え方が昨日より強い。


 危険信号だ。


 だが、そのとき。


【生活最適化:状況把握を強く推奨】


「……一瞬」


 負けた。


 外へ。


「……やめて」


 家の前。


 いや、もう“前”ではない。


 そこは――


 整列した人の海だった。


 白。


 白い服。


 簡素だが、統一されている。


 年齢も、性別もバラバラ。


 だが全員、静かだ。


 そして。


 全員が、同じ方向を見ている。


「……こっち見てる」


 当然だ。


 家はここにある。


「静かすぎるね」


 ミリアが小さく呟く。


 ざわめきがない。


 呼吸音だけが、揃っている。


「……何これ」


 誰も答えない。


 だが、前のほうから一人、進み出る。


 見覚えがある。


「……リオナ」


 商人。


 今回も関係している顔だ。


「おはようございます」


「帰って」


 即答。


「新しい段階に入りました」


「入らない」


 拒否。


 だがリオナは淡々と続ける。


「“無為流”の思想が、より広く受け入れられた結果――」


 嫌な言い回しだ。


「“無為教”として体系化されました」


「やめて」


 完全にアウト。


「宗教じゃない」


 即訂正。


「ええ、宗教ではありません」


 安心しかける。


「ですが信仰対象は存在します」


「やめて」


 同じだ。


 リオナが指を軽く上げる。


「朝の儀式を」


「しない」


 だが。


 全員が、同時に目を閉じた。


 静止。


 完全に。


「第一段階:静止」


 誰かが小さく呟く。


「第二段階:同調」


 呼吸が揃う。


 風が、ゆっくり整う。


【無意識スキル発動:環境最適化】


 空気が、柔らかくなる。


「……やめて」


 それっぽくなるな。


「第三段階:無為」


 全員が、何もしない。


 だが、その“何もしなさ”が、場を支配する。


 静か。


 だが満ちている。


「……できてる」


 セリスが小さく言う。


「理屈はおかしいけど、現象は成立してる」


「してない」


 してほしくない。


 数秒。


 いや、数十秒かもしれない。


 ゆっくりと、全員が目を開ける。


 その瞬間。


 拍手が起きた。


「……?」


「素晴らしい……!」


「今、感じた……!」


 何を。


【誤解誘導が発動しました】


「“無為王”の加護だ……」


「ここは聖地だ……!」


「やめて」


 ワードが強い。


 リオナが満足そうに頷く。


「巡礼も始まっています」


「始めないで」


「すでに街からの来訪者が増加中です」


「減らして」


 無理だろう。


 ミリアが笑いをこらえている。


「完全にそれだね」


「違う」


 セリスが静かに分析する。


「“何もしない”が、解釈の余地を無限に広げてる」


 やめてほしい。


「言葉が少ないほど、受け取り手が埋める」


「埋めないで」


 だが、もう埋まっている。


 ルナが楽しそうに言う。


「お兄ちゃん、すごい場所になってる!」


「違う」


 違うが、もう遅い。


 そのとき。


 一人の老人が前に出る。


「お言葉を……」


「ない」


 即答。


「一言でよいのです」


「ない」


 強く否定。


 だが。


 全員が、待っている。


 静かに。


【生活最適化:最小発言】


「……何もしない」


 言ってしまった。


 一瞬の沈黙。


 そして。


「……やはり」


 誰かが震える声で言う。


「それが答え……!」


「違う」


 だが止まらない。


「無為こそが真理……!」


「行動の先にある静止……!」


 増幅していく。


 ミリアが肩を震わせている。


「ダメだ、これ」


「止めて」


 セリスも小さく息を吐く。


「完全に完成してるわね」


 やめてほしい。


 リオナが軽く一礼する。


「さらに拡張していきます」


「やめて」


 止まらない。


 もう止まらない。


「……帰る」


 限界。


 家へ。


 布団へ。


「……疲れた」


 本当に何もしていないのに。


「ユウト、どうするのこれ」


 ミリアが笑いながら聞く。


「どうもしない」


 それしかない。


 セリスが静かに言う。


「思想になった時点で、個人の手を離れる」


 知っている。


 だから嫌だった。


 ルナは嬉しそうだ。


「お兄ちゃんすごい!」


「違う」


 リィナは完全に涙目だ。


「師匠……導き……!」


「違う」


【省エネ成長:大幅上昇】


「いいね」


 何もしないほど、全部進む。


「寝る」


 目を閉じる。


 外では、また静かに人が集まっている。


 声はない。


 だが確実に――増えている。


「……知らない」

【次回:なぜか“聖地化”して建物が建ち始めますが、許可していません】

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