災害級の異変が起きていたらしいけど、寝ている間に終わっていました
夜。
寝ている。
ちゃんと寝ている。
今日は本当に寝ている。
【省エネ成長:緩やか上昇】
「……いい」
久しぶりに、静かな夜だ。
外のざわつきもない。
風も穏やか。
虫の音だけが、一定のリズムで続いている。
目を閉じる。
意識が、ゆっくり沈む。
そのはずだった。
遠くで、何かが鳴った。
低い音。
地面の奥から響くような、鈍い振動。
……気のせいだ。
【生活最適化:外部ノイズ軽減】
音が、薄れる。
「……寝る」
意識を落とす。
完全に。
――――
その頃。
村の外れ。
森が、揺れていた。
風ではない。
何かが、押し広げるように動いている。
「……来てる」
ミリアが低く呟く。
セリスも、静かに頷く。
「昨日の王女の話……当たりね」
ルナは少しだけ不安そうに、家の方を見る。
「お兄ちゃん……寝てるよね」
「寝てるわね」
起こすか。
迷いは一瞬。
「……やめとこ」
ミリアが言う。
「どうせ起きないし」
「それもそうね」
妙な納得。
だが、森の奥から“それ”は出てきた。
黒い影。
大きい。
いや、大きすぎる。
「……何あれ」
誰かが呟く。
答えはない。
ただ一つだけ、わかることがある。
「災害級」
セリスの声が、少しだけ硬い。
空気が、重くなる。
呼吸がしづらい。
「やばいね、これ」
ミリアが笑う。
笑っているが、目は笑っていない。
影が、ゆっくりと動く。
村の方へ。
そのとき。
風が、止まった。
完全に。
「……え?」
ルナが顔を上げる。
音が消える。
虫の音も、木のざわめきも。
すべてが、一瞬で“均一”になる。
【無意識スキル発動:環境完全最適化】
空気が、整う。
それは、優しい。
だが同時に――
圧倒的だった。
影が、止まる。
「……動かない?」
ミリアが目を細める。
黒い存在が、ぴたりと止まる。
次の瞬間。
スッ、と。
消えた。
「……は?」
誰も動かない。
音が戻る。
虫の声。
風。
すべてが、何事もなかったように流れ始める。
「……終わった?」
ルナが小さく言う。
セリスが周囲を確認する。
「……消えたわね」
ミリアが肩をすくめる。
「何これ」
誰も答えない。
ただ一つだけ。
全員が、同じ方向を見る。
家。
「……寝てるわね」
セリスが呟く。
ミリアが笑う。
「だよね」
――――
朝。
起きている。
目は閉じている。
これは寝ている。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
外が、やけに静かだ。
昨日の夜のざわつきも、何も残っていない。
「ユウトー!」
「いない」
ドアが開く。
「終わったよ!」
「何が」
聞いてしまった。
「全部!」
雑だ。
「災害級!」
「知らない」
知らない。
セリスが静かに説明する。
「巨大な魔物が出たわ」
「知らない」
「村に来る直前で消えた」
「よかった」
それでいい。
「心当たりは?」
「ない」
即答。
ルナが嬉しそうに言う。
「お兄ちゃん、寝てた!」
「寝てた」
重要。
ミリアがニヤニヤしている。
「タイミング完璧だね」
「知らない」
そのとき。
コンコン。
ノック。
「……多い」
「入るわ」
アリシアだ。
第二王女。
「報告です」
「いらない」
だが彼女は続ける。
「昨夜、各地で同様の現象が確認されました」
「知らない」
「すべて同時に収束」
「よかった」
それでいい。
「原因は不明」
「そう」
知らない。
アリシアは、じっとこちらを見る。
「本当に?」
「知らない」
風が、少しだけ整う。
【誤解誘導が発動しました】
「……なるほど」
また納得された。
「やめて」
やめてほしい。
「今回は感謝します」
「してない」
していないのに、される。
「国としても対応を続けます」
「続けて」
任せる。
アリシアは軽く頭を下げて去っていった。
静寂。
「……なんだったの」
ミリアが笑う。
「災害だったらしいよ」
「終わったならいい」
セリスが小さく言う。
「規模が大きくなってきたわね」
やめてほしい。
ルナは元気だ。
「お兄ちゃんすごい!」
「違う」
リィナは震えている。
「師匠……もはや……」
「違う」
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
何もしないほど、全部うまくいく。
「寝る」
目を閉じる。
外は静かだ。
だがその静けさは――
昨日より、さらに“広い”。
「……知らない」
【次回:なぜか“宗教っぽいもの”ができ始めますが、関係ありません】




