王都に呼び出されたけど行かないので、王族の方が来ました
朝。
起きている。
目は閉じている。
これは寝ている。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
外が、静かだ。
昨日までの騒ぎが嘘みたいに静まっている。
……これは良くない静けさだ。
「ユウトー……」
「いない」
ドアの向こうから、ミリアの声。
少し抑え気味だ。
「いるでしょ」
「いない」
開いた。
「来てる」
「来てない」
短い応酬。
だが、重い。
「今度は“正式召喚”」
「行かない」
即答。
「まだ内容を――」
「行かない」
内容は関係ない。
セリスが静かに入ってくる。
「王都からよ」
「行かない」
「王城」
「行かない」
むしろ強くなった。
「お兄ちゃん、すごい紙だよー」
「見ない」
ルナが金の縁取りの手紙を持っている。
絶対に見ない。
「師匠!ついに王の――」
「違う」
リィナの語彙が危険域を超えている。
「とりあえず読むわよ」
セリスが開く。
「“王命により――”」
「行かない」
「“即時来訪を――”」
「行かない」
「“拒否は――”」
「行かない」
最後まで聞かない。
静寂。
「……どうするのこれ」
ミリアが苦笑する。
「どうもしない」
それしかない。
だが、そのとき。
ドン、と。
遠くで重い音がした。
「……何?」
ルナが窓を見る。
見ない。
だが。
【生活最適化:外部確認を推奨】
「……少しだけ」
負けた。
外へ。
「……なにこれ」
村の入口。
そこに――
馬車。
いや、違う。
巨大な、豪華な乗り物。
金と白で装飾され、紋章が刻まれている。
「……多い」
護衛。
整列。
無駄がない。
そして。
扉が開く。
降りてきたのは――
一人の少女。
長い銀髪。
整った顔立ち。
空気が、明らかに違う。
「……来たわね」
セリスが小さく言う。
「誰」
聞いた。
「王族よ」
「帰る」
即決。
「待って」
ミリアに止められる。
「話だけでも!」
「聞かない」
だが、少女はまっすぐこちらを見る。
「初めまして」
声は静かだが、よく通る。
「私はアリシア」
一拍。
「この国の第二王女です」
「そう」
帰りたい。
「本来なら、あなたに来てもらう予定でした」
「行かない」
「ですが」
一歩、近づく。
「来ないので、こちらが来ました」
「来なくていい」
だが、もう来ている。
「話を聞いてほしい」
「聞かない」
拒否。
だが。
アリシアは、ほんの少しだけ笑った。
「“無為王”」
「やめて」
その呼び方はやめてほしい。
「あなたに、お願いがあります」
「ない」
即答。
「国として」
「ない」
さらに即答。
だが。
周囲の空気が、少しだけ変わる。
護衛たちの視線。
村人たちの気配。
【生活最適化:衝突回避を推奨】
「……短く」
条件を出した。
「感謝します」
通った。
「最近、“異常な現象”が各地で発生しています」
「知らない」
「魔物の動きが不自然に止まる」
……それは。
「環境が急に整う」
……それも。
「原因不明です」
「知らない」
知らないことにする。
アリシアは、じっとこちらを見る。
「あなたは何か知っている?」
「知らない」
即答。
だが。
風が、少しだけ整った。
【無意識スキル発動:環境安定化】
護衛の一人が、小さく息を呑む。
「……今の」
「違う」
違う。
アリシアは、ゆっくり息を吐いた。
「なるほど」
なぜか納得された。
【誤解誘導が発動しました】
「言わない、ということですね」
「違う」
違うが、もう止まらない。
「無理に聞きません」
助かる。
「ただ一つだけ」
嫌な予感。
「必要なとき、力を貸してほしい」
「貸さない」
即答。
だが。
ルナが不安そうに言う。
「お兄ちゃん……」
ミリアも少しだけ真面目な顔。
「困ってる人がいるなら……」
面倒だ。
本当に面倒だ。
【生活最適化:最小介入で最大効果】
「……何もしないなら」
言ってしまった。
「それでいい」
アリシアが即答する。
「何もしなくてもいい」
「それなら」
一瞬、成立する。
「必要なときは、こちらが来る」
「来なくていい」
だがもう遅い。
「約束ですね」
「してない」
だが、空気的には成立している。
アリシアは軽く頭を下げた。
「今日はこれで失礼します」
去っていく。
整然と。
静寂が戻る。
「……帰る」
限界。
布団へ。
「……疲れた」
本当に何もしていないのに。
「ユウト、王女だよ?」
「知らない」
ミリアが笑う。
「でも約束しちゃったね」
「してない」
セリスが静かに言う。
「国レベルに入ったわね」
やめてほしい。
ルナは嬉しそう。
「お兄ちゃんすごい!」
「違う」
リィナは震えている。
「師匠……国家規模……!」
「違う」
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
何もしないほど、全部進む。
「寝る」
目を閉じる。
外はまた静かだ。
だが、その静けさは――
前よりもずっと、大きい。
「……知らない」
【次回:なぜか“災害級の異変”が起きますが、寝ている間に解決します】




