流派の名前が勝手に決まりましたが、そんなものは知りません
朝。
起きている。
目は閉じている。
これは寝ている。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
外が、うるさい。
昨日よりも、はっきりとうるさい。
……嫌な予感が、確信に近い。
「ユウトーーーー!!」
「いない」
ドアが開く。ミリアだ。
今日も勢いがある。
「決まった!!」
「決めない」
内容を聞く前に拒否。
「名前!!」
「いらない」
やめてほしい単語ランキング上位。
「流派の!」
「ない」
ない。
はずだ。
セリスが静かに入ってくる。
「あるわよ」
「ない」
「もう定着してる」
最悪だ。
「お兄ちゃん、かっこいい名前だよー!」
「いらない」
ルナが楽しそうに笑う。
やめてほしい。
「師匠!ついに公式に……!」
「違う」
リィナのテンションが天井に刺さっている。
「聞くだけ!」
「聞かない」
だが、そのとき。
【生活最適化:情報取得が推奨】
「……短く」
条件を出した。
「よし!」
ミリアが満面の笑み。
「発表するね!」
「しないで」
無視された。
「“無為流”!!」
静寂。
「……は?」
一拍遅れて、理解が来る。
「何もしないを極める流派!」
「やめて」
ド直球すぎる。
「ぴったりじゃない?」
「よくない」
セリスが頷く。
「本質は捉えてるわね」
「捉えてない」
ルナが拍手している。
「かっこいい!」
「かっこよくない」
リィナは完全に感動している。
「師匠……ついに……!」
「違う」
だが。
外から声が聞こえる。
「無為流、第一段階いきます!」
「呼吸を整えろ!」
「やめて」
完全に広がっている。
【誤解誘導が発動しました】
「“無為”……深い……」
「何もせず、すべてを成す……!」
やめてほしい。
「違う」
否定するが、弱い。
ミリアが小声で言う。
「もうタグになってるね」
「やめて」
セリスも頷く。
「広がりやすい名前だもの」
広がらないでほしい。
そのとき。
コンコン。
ノック。
「……多い」
「入ります」
返事を待たずに開く。
入ってきたのは――
リオナだ。
「順調です」
「やめて」
何も順調じゃない。
「“無為流”の認知が一気に広がっています」
「広げないで」
止めてほしい。
「すでに街で話題に」
「やめて」
さらに。
「グッズ化も進行中です」
「やめて」
早い。
全部が早い。
「“無為流 入門書”」
「ない」
「“無為流 呼吸法”」
「してない」
「“無為流 静止指南”」
「知らない」
勝手に増えている。
【資源流入:増加】
「利益も順調です」
「いらない」
だが袋は重い。
「……多い」
現実だけが強い。
そのとき。
「失礼します!」
新しい声。
振り向くと、一人の青年。
やけに真面目な顔。
「私は“無為流”の地方支部設立を――」
「ない」
即答。
「ですが需要が……!」
「ない」
強く否定。
だが青年は食い下がる。
「すでに希望者が百名を超えており――」
「減らして」
無理だろう。
セリスが小さく言う。
「もう組織化されてるわね」
「してない」
してほしくない。
ミリアは笑っている。
「ちょっと見に行く?」
「行かない」
だが。
【生活最適化:外部確認】
「……遠い?」
聞いてしまった。
「すぐそこ!」
まただ。
「……一瞬」
条件付きで外へ。
家の前。
「……やめて」
広場。
人が整列している。
「無為流、整列!」
「第一段階、静止!」
全員がピタッと止まる。
風が、少し整う。
「……やめて」
完全にそれっぽい。
「第二段階、同調!」
空気が、さらに整う。
【無意識スキル発動:環境最適化】
「……できてる」
セリスが呟く。
「理論として成立してるわ」
「してない」
だが、現象は起きている。
「すごい……!」
「本当に……!」
歓声。
リィナが震えている。
「師匠……完璧です……!」
「違う」
だが。
完全に“それ”になっている。
「……帰る」
限界。
「え、もう!?」
「もう」
逃げるように家へ。
布団に倒れる。
「……疲れた」
本当に何もしていないのに。
「ユウト、どうするのこれ」
ミリアが笑いながら言う。
「どうもしない」
それしかない。
セリスが静かに言う。
「名前がついた時点で、止まらないわ」
知っている。
だから嫌だった。
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
何もしないほど、全部進む。
「寝る」
目を閉じる。
外では今日も“無為流”が広がっている。
「……知らない」
【次回:なぜか“大会”が開催されますが、参加しません】




