弟子が増えすぎて修行が始まりましたが、何も教えていません
朝。
起きている。
布団の上で、目を閉じている。
これは寝ている。
……と定義している。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
最近、夢を見なくなった。
理由は簡単だ。
起きている時間と、寝ている時間の境界が曖昧になっているからだ。
つまり、ずっと同じだ。
変化がない。
それがいい。
外が騒がしい。
もうこれは日常だ。
むしろ静かだと不安になる。
なりたくないが、なってきた。
「ユウトーーーー!!」
「いない」
ドアが勢いよく開く。
ミリアだ。
今日も元気すぎる。
「増えた!!」
「減らして」
内容を聞く前に答えた。
「弟子!!」
「いらない」
即答。
「増えすぎたの!」
「減らして」
大事なことなので二回言った。
セリスがゆっくり入ってくる。
「想定内よ」
「想定しないで」
「昨日の店で一気に噂が広がったわ」
「広げないで」
広がるのが早い。
早すぎる。
「お兄ちゃん、外すごいよー」
「見ない」
ルナが窓の外を覗いている。
楽しそうだ。
見ない。
「師匠、ついに流派が……!」
「違う」
リィナの語彙が危険域に入っている。
「とにかく来て!」
「行かない」
だが、そのとき。
【生活最適化:外部圧力増大】
「……少しだけ?」
口が滑った。
「今だよ!!」
捕まった。
外。
「……多い」
昨日より多い。
明らかに多い。
家の前。
そこに――
「お願いします!!」
「弟子にしてください!!」
「一目でいいので!!」
人、人、人。
年齢もバラバラ。
装備もバラバラ。
共通しているのは――
目が、キラキラしていること。
「……帰る」
踵を返す。
「待ってください師匠!!」
「師匠じゃない」
囲まれた。
「一言でいいんです!」
「言わない」
「何をすればいいですか!?」
「何もしない」
一瞬、静まる。
「……何もしない?」
誰かが呟く。
「はい!」
リィナが力強くうなずく。
「それが師匠の極意です!」
「違う」
違うが、もう遅い。
【誤解誘導が発動しました】
「なるほど……無駄を削ぎ落とす……」
「動かないことで最適化……」
「深い……!」
深くない。
だが。
数分後。
「……こうか」
一人の少年が、その場で動きを止める。
呼吸を整える。
力を抜く。
風が、少しだけ揺れる。
「……あ」
小さな石が、コロッと転がる。
「できた……!」
「できてない」
偶然だ。
だが周囲は違う。
「見たか今の!」
「空気が動いたぞ!」
【誤解誘導が発動しました】
「やはり……!」
増幅していく。
「師匠、次は何を!?」
「何もしない」
また静まる。
「……なるほど」
納得されるな。
「段階があるんだ……」
「最初は静止……」
「次に環境……!」
勝手に体系化されている。
「違う」
否定するが、弱い。
セリスが横で小さく呟く。
「理論っぽくなってるわね」
「なってない」
ミリアは笑っている。
「ちょっと面白い」
「面白くない」
だが、流れは止まらない。
「じゃあ次は!」
一人が叫ぶ。
「“完全停止”を試します!」
「やめて」
数人が同時に止まる。
動かない。
呼吸だけ。
数秒。
風が、揺れる。
ほんの少し。
「……来た」
誰かが呟く。
「感じた……!」
【無意識スキル発動:周囲最適化】
空気が整う。
地面の温度が、少しだけ均一になる。
「……すごい」
違う。
「これが……」
「師匠の……!」
「違う」
だが、止まらない。
気づけば――
「第一段階:静止」
「第二段階:環境同調」
地面に何か書かれている。
「第三段階は……?」
知らない。
「ない」
言った。
だが。
「なるほど……まだ先か……!」
勝手に続いた。
「深い……!」
深くない。
横を見ると、リィナが完全に感動している。
「師匠……すごい……」
「違う」
ミリアが小声で言う。
「これもう止まらないね」
「止めて」
セリスが頷く。
「“流派”ができたわね」
やめてほしい。
そのとき。
「……あの」
新しい声。
振り向くと、一人の少女。
店で見た、あのエプロンの子だ。
「私も……やってみてもいいですか?」
「やらないで」
だが、彼女はその場で目を閉じた。
呼吸を整える。
力を抜く。
静かに、立つ。
数秒。
ふわり、と。
彼女の髪が、風もないのに揺れた。
「……え?」
周囲がざわつく。
「今の……」
ミリアも驚いている。
「これ……」
セリスが目を細める。
「……同調してる」
「してない」
だが、空気が確かに整っている。
【生活最適化:周囲同期】
「……できた」
少女が目を開く。
「ありがとうございます!」
「してない」
完全にしてない。
だが。
「すごい……!」
「一瞬で……!」
拍手が起こる。
広がる。
増える。
「……帰る」
限界だ。
「え、もう!?」
「もう」
逃げるように家へ。
布団に倒れる。
「……疲れた」
本当に何もしていないのに。
「ユウト、すごいことになってるよ」
「知らない」
ルナが笑う。
「お兄ちゃんの修行!」
「してない」
ミリアが笑う。
「でも広まるね、これ」
「広めないで」
セリスが静かに言う。
「もう広まってるわ」
終わった。
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
何もしないほど、全部進む。
「寝る」
目を閉じる。
外では、まだ誰かが修行している。
「……知らない」
【次回:なぜか“流派の名前”が決まってしまいます】




