行ってないのに、“俺の店”が大繁盛してました
朝。
寝ている。
起きてはいるが、目は閉じている。
これは寝ている。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
外が騒がしい。
最近はこれがデフォルトだ。
慣れたくないが、慣れてきた。
「ユウトー!!」
「いない」
ドアが開く。ミリアだ。
テンションが異常に高い。
「オープンした!!」
「してない」
何が。
「お店!!」
「知らない」
知りたくない。
「ユウトの店!」
「違う」
違うのに、確信されている。
「行くよ!」
「行かない」
即答。
「様子だけでも!」
「見ない」
だが、セリスが静かに言う。
「見た方がいいわ」
「よくない」
「もう止まらないもの」
嫌な言葉だ。
「お兄ちゃん、すごい人だよー!」
「見ない」
ルナが窓から外を見ている。
絶対に見ない。
「師匠、ついに世界が……!」
「違う」
リィナは今日も元気だ。
だが、そのとき。
【生活最適化:状況把握を推奨】
「……遠い?」
聞いてしまった。
「すぐそこ!」
ミリアの即答。
「……一瞬」
それなら。
立ち上がる。
「やった!!」
また負けた。
広場。
「……多い」
人、人、人。
村じゃない密度だ。
「何あれ……」
「列できてる……」
長い列。
明らかに異常。
その先に――
「……ある」
店があった。
看板。
【ユウトの台所】
「やめて」
完全にアウト。
「かわいい名前でしょ!」
「よくない」
ミリアが笑う。
「中入る?」
「入らない」
だが、流れで入った。
俺の意思ではない。
店内。
人で溢れている。
料理の匂いが、やけにいい。
「いらっしゃいませー!」
元気な声。
見たことない店員たち。
「……誰」
カウンターの奥。
見慣れた顔。
「やあ」
リオナだ。
「順調です」
「やめて」
何も順調じゃない。
「初日でこの行列。予想以上ですね」
「してない」
俺は何もしていない。
「味は?」
セリスが聞く。
リオナが笑う。
「完璧です」
嫌な予感。
「どうやって」
ミリアが身を乗り出す。
「再現しました」
「無理でしょ」
その通り。
「完全再現は不可能です」
正直だ。
「ですが」
リオナが指を立てる。
「“それっぽくなる環境”を再現しました」
嫌なワード。
「風、温度、配置」
どこかで聞いた話だ。
「そして」
一瞬、視線がこちらに来る。
「名前」
「やめて」
それが一番ダメだ。
「“ユウト監修”」
「してない」
完全にアウト。
「でも美味しいよー!」
ルナが何か食べている。
「どこから」
「もらった!」
早い。
ミリアも一口。
「……え」
固まる。
「なにこれ」
セリスも食べる。
「……近い」
まさか。
「ほんとに?」
俺も一口。
【生活最適化:味覚補正】
「……近いな」
やめてほしい。
「でしょ?」
リオナが笑う。
「“ユウトがいなくても、ユウトっぽい”」
最悪の完成度だ。
「やめて」
だが、店は回っている。
「次の方どうぞー!」
「完売間近です!」
活気がすごい。
「利益も順調です」
「いらない」
だが。
【資源流入:増加】
「……多いな」
袋が渡される。
重い。
「初日の分です」
「多い」
「これでも控えめです」
控えてこれか。
そのとき。
「……あの」
新しい声。
振り向くと、一人の少女。
エプロン姿。少し緊張した顔。
「ここで働かせてください!」
「しない」
即答。
「あなたに言ってないです!」
怒られた。
「でも、この味を作ってる人に……!」
「してない」
リオナが割り込む。
「採用です」
早い。
「えっ」
少女が驚く。
「人手は多い方がいい」
正論だが、巻き込みが早い。
「ありがとうございます!」
増えた。
「……増えた」
セリスが呟く。
「無限に増えるわね」
やめてほしい。
外。
「売り切れだー!」
「もう終わりか!」
騒ぎがさらに大きくなる。
「……帰る」
限界だ。
「え、もう!?」
「もう」
即撤退。
家に戻る。
布団に倒れる。
「……疲れた」
何もしていないのに。
「ユウト、すごかったね」
「すごくない」
ルナが笑う。
「お兄ちゃんのお店!」
「違う」
ミリアがニヤニヤしている。
「でも売れてるね」
「知らない」
セリスが静かに言う。
「もう止まらないわね」
止まってほしい。
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
何もしないほど、全部うまくいく。
「寝る」
それが一番、効率がいい。
【次回:なぜか“弟子が増えすぎて”修行が始まりますが、何も教えません】




