噂が街中に広がっているらしいけど、本人は寝ています
昼。
寝ている。
正確には、起きているが目を閉じている。
これは寝ているのと同じだ。
【省エネ成長:安定上昇】
「完璧」
外がやけに静かだ。
……いや、静かすぎる。
嫌な静けさだ。
「ユウトー……」
「いない」
ドアの向こうから、妙に落ち着いたミリアの声。
「いるでしょ」
「いない」
開いた。
「来てる」
「来てない」
短い応酬。
だが、いつもと違う。
「今度は“手紙”」
「読まない」
新しいパターンだ。
「王都からよ」
「捨てて」
セリスが後ろから入ってくる。
「もう開けたわ」
「やめて」
勝手に進んでいる。
「お兄ちゃん、すごい紙だよー」
「見ない」
ルナがひらひらさせる。
金の縁取り。無駄に豪華。
「師匠、ついに正式に……!」
「違う」
リィナの期待値が天井に近い。
「読むわよ」
セリスが淡々と読み上げる。
「“王都商業連合より。貴殿の調理技術および影響力について確認したく――”」
「知らない」
もう一枚。
「“冒険者ギルド中央本部より。測定不能の件につき――”」
「知らない」
さらに一枚。
「“騎士団より。先日の件に関する正式な謝辞と――”」
「知らない」
多い。
「全部、あなた宛てよ」
「違う」
違うのに、集まってくる。
【誤解誘導が発動しました】
「完全に広がってるわね」
セリスがため息をつく。
「どこまで?」
「街どころじゃないわ。王都レベル」
やめてほしい。
「じゃあ行こう!」
「行かない」
ミリアの提案を即否定。
「様子見だけでも!」
「見ない」
だが、そのとき。
コンコン。
ノック。
まただ。
「……多い」
「入るわよ」
「よくない」
開いた。
入ってきたのは、一人の少女。
年齢はミリアと同じくらい。
淡い金髪。整った服装。無駄に上品。
そして――
目が、完全に商売人。
「初めまして」
軽く頭を下げる。
「私はリオナ。王都商業連合の代表代理です」
「そう」
帰ってほしい。
「噂は聞いております」
「聞かなくていい」
だがリオナは笑った。
「“何もしないのに結果を出す少年”」
「違う」
その呼び方やめてほしい。
「本日はご提案に参りました」
「いらない」
即拒否。
「商品化です」
「しない」
早い。
「あなたの料理」
「してない」
事実だ。
「あなたの存在」
「やめて」
それは商品じゃない。
「ブランド化すれば、王都でも通用します」
「しない」
ぶれない。
「何もする必要はありません」
「それは」
一瞬止まる。
【生活最適化:条件評価中】
「……何もしない?」
確認。
「ええ。名前を貸すだけで」
「貸さない」
危ない。
ギリギリだった。
「では、監修だけでも」
「しない」
完璧な拒否。
リオナは少しだけ目を細めた。
「……なるほど」
なぜか納得された。
【誤解誘導が発動しました】
「安売りはしないタイプですね」
「違う」
違うが、もう流れは止まらない。
「価値を理解している」
「してない」
評価が勝手に育っていく。
「では、別の形で」
嫌な予感。
「こちらで展開させていただきます」
「やめて」
間に合わない。
「“監修:ユウト”として」
「してない」
やめてほしい。
だがリオナはすでに手帳に何か書いている。
「初動は街から。すぐに広げます」
「広げないで」
止まらない。
「利益の一部は還元します」
「いらない」
だが。
【生活最適化:資源流入】
「……多いなら」
つい言ってしまった。
「多くします」
即答された。
しまった。
「じゃあ決まりですね」
「決まってない」
完全に決まっている顔だった。
「また報告に来ます」
「来なくていい」
リオナは軽く頭を下げて、出ていった。
静寂。
「……何これ」
ミリアが笑いをこらえている。
「もう止まらないね」
「止めて」
セリスが頷く。
「街どころか、王都に入ったわね」
ルナは楽しそうだ。
「お兄ちゃん、有名人!」
「違う」
リィナは震えている。
「師匠……伝説が……」
「違う」
【省エネ成長:大幅上昇】
「いいね」
結局、何もしていない。
だが、全部進んでいる。
「寝る」
布団に倒れる。
外では、また誰かが騒いでいる。
たぶん、全部俺のことだ。
「……知らない」
目を閉じる。
【次回:なぜか“ユウトの店”が勝手にオープンします】




