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第1章・第7話『選別の音』

 力が知られたとき、次に起こるのは“選別”だ。


 それは善悪ではない。

 ただ、その力がどこに属するのかを決める行為。


 守られるのか。

 利用されるのか。

 それとも――切り捨てられるのか。


 まだ未熟な旋律は、いま試されようとしている。


 数日後。


 アルルは再び、研究棟の一室へと呼び出されていた。


「……また、ここ」


 小さく呟く。


 前とは違う。


 今回は、ひとりではなかった。


 部屋の中には、教師が三人。


 その中央に立つのは、見覚えのない人物だった。


 年配の男性。

 整った服装と、静かな威圧感。


「君がラレシィエンヌか」


「は、はい……」


 視線だけで、空気が張り詰める。


「噂は聞いている」


 短い言葉。


 だが、その一言にすべてが含まれていた。


---


「これより、簡易的な適性検査を行う」


 別の教師が告げる。


「適性……検査?」


「君の技術の性質を確認するためのものだ」


 机の上には、見たことのない素材が並べられていた。


 淡く光る結晶と、不安定に揺れる液体。


「……難しそう」


 思わず漏れる。


「当然だ」


 中央の男性が言う。


「これは基礎ではない。“制御能力”を見るための課題だ」


 逃げ道はない。


 アルルは、小さく息を吸った。


---


(……大丈夫)


 目を閉じる。


 あの庭での感覚を思い出す。


 受け入れる。整える。


 そして――歌う。


---


 旋律が、部屋に広がる。


 今までよりも、少しだけ強い。


 意識している。


 見られていることも、評価されていることも。


 それでも――


(乱れない)


 魔力が、流れる。


 素材が応える。


 だが。


 ――突然。


 **ぐにゃり**と、感覚が歪んだ。


「……っ!?」


 魔力が、乱れる。


 歌は崩れていない。


 なのに――


(なに、これ……!?)


 外から“何か”が干渉している。


 そんな違和感。


---


「……ここまでだ」


 低い声が響く。


 次の瞬間、錬成は強制的に止められた。


 光が消える。


「え……?」


 アルルは戸惑う。


「今のは……」


「意図的な干渉だ」


 中央の男性が淡々と言う。


「外部からの魔力攪乱に対する耐性を見るためのな」


「かく乱……?」


「簡単に言えば、“邪魔されたときにどうなるか”だ」


 アルルの背筋に、冷たいものが走る。


(邪魔されたら……)


 さっきの感覚。


 あれが、もし戦闘や緊急時だったら。


---


「結果は明白だ」


 男性は静かに告げる。


「制御能力は高いが、外部干渉に極めて弱い」


 事実。


 否定できない。


「……未完成だな」


 その一言が、重く落ちる。


---


 部屋を出たあと。


 廊下でリュクスとセレスが待っていた。


「どうだった?」


 リュクスがすぐに駆け寄る。


「……途中で、止められちゃった」


「止められた?」


「うん……邪魔されて……何もできなかった」


 悔しさが、滲む。


---


「当然の結果ね」


 セレスが言う。


「え……?」


「あなたの技術は外部からの影響を受けやすい。むしろ、あれで崩れなかっただけ上出来よ」


 冷静な分析。


 でも――


「……悔しい?」


 ふと、そんな言葉が続いた。


 アルルは少しだけ驚く。


 そして、頷く。


「……うん」


「なら、対策を考えなさい」


 セレスは視線を逸らす。


「弱点がわかったなら、それは前進よ」


---


 そのとき。


「……ほんと、面白いね」


 あの声。


 三人が同時に振り向く。


 廊下の奥。


 あの女性が、壁にもたれて立っていた。


「また……!」


 セレスが鋭く反応する。


「そんなに警戒しなくても」


 軽く笑う。


「さっきの、見てたよ」


 アルルの心臓が跳ねる。


「……ああいうの、苦手でしょ?」


 図星。


「外からぐちゃってされるの」


 無邪気な言い方。


 だが内容は鋭い。


「……対策、知りたい?」


 一歩、近づく。


 空気が変わる。


「やめなさい」


 セレスが遮る。


「不用意に関わるべき相手ではないわ」


「つれないなぁ」


 女性は肩をすくめる。


 それでも視線はアルルから外さない。


---


 アルルは、迷っていた。


 怖い。


 でも――


(知りたい)


 このままじゃ、また同じことになる。


「……教えて、ください」


 小さく、でもはっきりと。


 その言葉に、セレスが息を呑む。


---


「いいよ」


 女性は微笑んだ。


「その代わり――」


 ほんの少しだけ、声の温度が変わる。


「ちゃんと、最後までやりなよ」


 意味深な言葉。


 だがそれ以上は言わない。


「じゃあ、場所変えよっか」


---


 選択は、なされた。


 それが正しいかどうかは、まだ誰にもわからない。

 第7話です。


 今回は「学院側の評価」と「外部からの本格的な接触」を描きました。


 アルルの弱点が明確になりましたね。

 “外部干渉に弱い”というのは、今後かなり重要なポイントになります。


 そしてついに、アルルが“選ぶ側”に回りました。

 女性の誘いに乗るという決断は、小さく見えて大きな分岐です。


 セレスの制止、リュクスの不安、それでも踏み出すアルル。

 ここから物語は少しずつ“外の世界”へ広がっていきます。

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