表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/26

第1章・第3話『静かな視線』

才能とは、時に祝福ではなく“兆し”である。


 それが誰の目にも明らかになった瞬間、

 世界はその存在を放っておかない。


 守ろうとする者。利用しようとする者。

 そして――排除しようとする者。


 まだ小さな歌は、静かに広がり始めていた。

 放課後の実習室は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。


「……ここでいいの?」


 アルルは少し不安そうに周囲を見回す。


「うん。人も少ないし、落ち着いて試せるから」


 リュクスはいつもの穏やかな調子で答えた。


 昼間の一件以来、教師からの呼び出しはまだ来ていない。

 それが逆に、妙な落ち着かなさを生んでいた。


「……ねえ」


 アルルが小さく声を出す。


「わたしのやつ……変、かな」


 少しの間。


 リュクスは考えるように視線を落とし、そして言った。


「変かどうかで言えば……変だと思う」


「うっ……」


 正直すぎる答えに、アルルの肩が落ちる。


「でも」


 すぐに続ける。


「それって悪い意味じゃないよ」


 アルルが顔を上げる。


「普通じゃないってことは、誰もやってないってことだから」


 その言葉は、静かに背中を押した。


「……やってみる」


 アルルは頷く。


 再び、錬成の準備。


 素材を並べ、深呼吸をひとつ。


 そして――歌う。


 今度は少しだけ意識する。


 魔力の流れを、旋律に重ねるように。


「……っ」


 感じる。


 昨日よりも、はっきりと。


 自分の中の何かと、外の何かが繋がる感覚。


 素材が“応える”。


 魔力が“整う”。


 そして――


 光が、静かに満ちた。


「……成功、だね」


 リュクスが小さく呟く。


 アルルは、息を吐いた。


「……ちょっとだけ、わかった気がする」


「ほんと?」


「うん。歌ってると……ちゃんと流れるの」


 言葉にするのは難しい。

 でも確かに、“感覚”がある。


「それ、すごく大事だと思う」


 リュクスは真剣な顔で言った。


「たぶんそれ、君にしかできない」


 そのとき――


「……興味深いわね」


 背後から、静かな声。


 振り向くと、そこにはセレスが立っていた。


「い、いつから……?」


「最初からよ」


 あっさりと答える。


 腕を組み、アルルの錬成結果を見つめている。


「……やはり再現性はある」


 ぽつりと呟く。


「完全に偶然ではない……」


 その視線は鋭いままだが、どこか違っていた。


 否定ではなく、“観察”。


「……もう一度」


「え?」


「同じことをやってみせなさい」


 有無を言わせない口調。


 アルルは戸惑いながらも頷く。


 三度目の錬成。


 歌う。


 整う。


 ――成功。


 四度目。


 ――成功。


 五度目。


 ――成功。


 沈黙が落ちる。


 セレスはゆっくりと目を閉じ、そして開いた。


「……認めざるを得ないわね」


 その言葉は、小さく、しかしはっきりしていた。


「あなたのそれは、“技術”よ」


「……え?」


 アルルが目を丸くする。


「理論として未解明なだけで、現象としては成立している」


 淡々とした口調。


 だがそれは――否定の撤回だった。


「ただし」


 鋭い視線が戻る。


「理解できない以上、危険性は否定できない」


「危険……?」


「感情に依存する魔術は、制御を誤れば暴走する」


 その言葉に、アルルの胸が少しだけざわつく。


「……だから」


 セレスは一歩近づく。


「私が観察する」


「えっ」


「その力が何なのか、見極める必要があるわ」


 宣言のような一言。


 それはライバルとしての挑戦であり、同時に――


 初めての“関与”だった。


 その頃。


 学院の外れ、立ち入りが制限された一角。


 薄暗い部屋の中で、数名の人物が集まっていた。


「……対象の確認が取れました」


 淡々とした報告。


「歌唱による魔力制御。複数回の再現を確認」


「……そうか」


 低い声が応じる。


「やはり、“兆し”か」


 机の上には、一枚の報告書。


 そこには、アルルの名前が記されていた。


「対応は?」


「現在は監視段階。しかし……」


 わずかな間。


「危険度は、低く見積もるべきではありません」


 沈黙。


 やがて、その場の中心にいる人物が口を開いた。


「――観察を強化しろ」


 静かで、しかし決定的な声。


「必要とあれば、確保も視野に入れる」


 まだ小さな歌。


 まだ未完成の力。


 だがそれは確かに、世界のどこかに“届いてしまった”。





第3話です。


 ここでは「アルルの力が偶然ではない」と確定し、

 セレスの立ち位置が“否定者”から“観察者”へと変わりました。


 そして同時に、水面下では不穏な動きも始まっています。

 アルル自身はまだ何も知らないまま、物語は少しずつ大きな流れへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ