第2章・第6話『閉ざされた鳥籠』
助けを求める声は、いつも大きいとは限らない。
叫びではなく。
涙でもなく。
ただ静かに、“誰かに届いてほしい”と願うだけの声。
だからこそ――
本当に優しい者ほど、その小さな響きを聞いてしまう。
少女の歌は、遠く離れた孤独へ届いた。
ならば次に起きるのは、きっと。
“会いに行く”という選択だ。
翌朝。
アルルは完全に寝不足だった。
「……眠そうね」
セレスが呆れたように言う。
「だ、だって……」
アルルは机に突っ伏しながら答える。
昨夜の“声”。
フィノという少女。
あれが頭から離れない。
(被験体……って、何されてるんだろ)
胸がざわつく。
「また繋がるかもしれないと思って、一晩中起きてたの?」
セレスが半眼になる。
「うっ……」
図星だった。
「無茶しすぎ」
「でも……」
アルルが顔を上げる。
「放っておけないよ」
その言葉に、セレスは少しだけ黙る。
「……そういうところ、本当に危なっかしい」
「褒めてる?」
「褒めてない」
即答だった。
そこへ。
「でも嫌いじゃない」
「っ!?」
アルルが勢いよく振り向く。
いつの間にかリュクスがいた。
「リュクス!?」
「おはよう」
にこやかだった。
「なんで自然に会話混ざってるのよ……」
セレスが頭を押さえる。
「いや、なんか入りやすい空気だったから」
その時。
ガチャリ。
教室の扉が開く。
「……朝から賑やかだね」
ミレイアだった。
「うわっ」
アルルが素で声を漏らす。
「ひどくない?」
「最近ほんと急に出てくるから……」
ミレイアは軽く笑いながら、アルルの前に一枚の紙を置いた。
「……これ、なに?」
「場所」
紙には古い地図と座標。
そして、赤い印。
セレスの顔色が変わる。
「……地下研究区画」
「え?」
「管理局の旧研究施設」
ミレイアが答える。
「たぶん、そのフィノって子そこにいる」
アルルが息を呑む。
「ど、どうしてわかるの?」
「共鳴波形」
さらっと言う。
「昔の施設は特殊な遮断結界使ってるから、逆にわかりやすい」
「つまり」
セレスが鋭く言う。
「あなた最初から気づいてたのね」
「まあね」
悪びれない。
「ならどうして今まで――」
「確証なかったし」
ミレイアの目が少し細くなる。
「正直、繋がると思ってなかった」
空気が少し重くなる。
「……行くの?」
リュクスが静かに聞く。
アルルは、地図を見る。
知らない場所。
危険な施設。
でも。
『やっと……見つけた』
あの声が、頭に残っている。
「……行きたい」
小さな声。
でも、迷いはなかった。
セレスが深くため息を吐く。
「言うと思った」
「止める?」
「止めても行くでしょ、あなた」
アルルは少し困ったように笑った。
「……うん」
「はぁ……」
セレスは髪をかき上げる。
「だったら私も行く」
「セレス……!」
「当然」
淡々としている。
「監督役なんだから」
だが耳が少し赤い。
「じゃあ俺も」
リュクスが自然に言う。
「リュクスまで!?」
「一人だけ待ってろは無理」
苦笑しながら肩をすくめる。
アルルの胸が、少し温かくなる。
「……ありがと」
その時。
「ちなみに」
ミレイアがさらっと言う。
「たぶん罠あるよ」
全員が固まる。
「もっと早く言いなさいよ!!」
セレスが怒鳴った。
「いやでも管理局施設だし」
ミレイアはケロッとしている。
「あと、多分警備用魔導兵も残ってる」
「……帰っていい?」
リュクスが真顔で言った。
「ダメ」
三人同時だった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
重かった空気が和らぐ。
だが。
ミレイアだけは笑っていなかった。
(……頼むから)
心の中で呟く。
(同じ結末にはなるなよ)
一方その頃。
地下研究施設。
薄暗い独房。
フィノは、膝を抱えて座っていた。
その耳元に、微かに響く。
あの歌。
「……来てくれる」
少女は、小さく笑う。
長い孤独の中で、初めて。
本当に嬉しそうに。
第2章・第6話です。
今回は「フィノ救出編」の導入回でした。
ポイントは、
・アルルが“助けたい”を自分で選んだこと
・セレスとリュクスが自然に同行を決めたこと
・ミレイアがかなり本気で警戒していること
です。
特にミレイアの反応が重要です。
彼女は“過去を知っている側”なので、
今回の救出がどれだけ危険か理解している。
それでも止めきれない。
なぜならアルルの歌が、
かつての“S計画”とは違う可能性を見せているからです。
そしてフィノ。
彼女は今後かなり重要な存在になります。
アルルの“共鳴”が初めて届いた相手であり、
同時に、過去の研究の犠牲者でもある。




