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第8話:亡き母の遺産は、世界の「根抵当権」でしたわ

「ひ、ひぃぃっ……! あ、あぁ……」


 黄金の杖を無残に折られ、這いつくばる大司教様の姿は、もはや聖職者のそれではありませんでした。

 三十年分の地代滞納。横領罪。そして、何より致命的なのは、わたくしという『新しいオーナー』に、その魂の価格まで鑑定されてしまったこと。


「大司教様。そんなに見窄らしい顔をなさらないで? ……貴方の横領した一五億ギル、命で払えとは申しませんわ。わたくし、死体からは一ギルも回収できない主義ですの」


 わたくしは、床に転がった大司教の鼻先に、一枚の『雇用契約書』を突きつけました。


「今日から貴方は、わたくしの『債権回収代行者』ですわ。教会が各地に隠している裏金、そして貴方の同僚たちが溜め込んでいる不透明な寄付金……そのすべてを、わたくしの口座へかき集めてきなさいな。回収額の三パーセントを、貴方の延滞利息の返済に充てて差し上げますわよ」


「……は、はい……っ。仰せのままに、セラフィナ様……っ!」


 かつての教会の権威が、わたくしの足元で震えながら契約書にサインを記します。

 これで、この国の宗教勢力はわたくしの『集金マシーン』へと成り下がりました。


 アラリック様が、鞘に収めた剣をカチャリと鳴らし、わたくしの横に並びます。


「……セラフィナ様。これで城内の害虫駆除は一段落ですが、次は?」


「ええ。……本題に入りましょうか。アラリック、わたくしが『西離宮』に拘っていた本当の理由をお見せいたしますわ」


 わたくしたちは、地下の物置部屋で埃にまみれて数字と格闘しているジュリアン様たちの横を通り過ぎ、西離宮のさらに奥深く……『開かずの間』とされていた母の書斎へと向かいました。


 母、エレイン・フォン・アストレア。

 彼女は十年前、わたくしに膨大な知識と『帳簿の読み方』を叩き込み、忽然とこの世を去りました。

 ただの公爵夫人にしては、あまりに冷徹で、あまりに世界の本質を見抜きすぎていた母。


 書斎の壁に飾られた、母の肖像画の前に立ちます。

 わたくしは肖像画の額縁に隠された隠しスイッチを、特定の『暗証番号』の順に押し込みました。


 ゴゴゴ……という重厚な音と共に、本棚が割れ、地下へと続く隠し階段が現れます。


「……ここから先は、わたくしとアラリック様だけで」


 階段を降りた先にあったのは、金銀財宝の山……ではありませんでした。

 そこにあったのは、冷たい魔力に守られた、唯一つの『黒い金庫』。

 わたくしは指先から魔力を流し込み、母から受け継いだ独自の認証解除を施しました。


 カチリ、と世界が反転するような音がして、金庫が開きます。


 中にあったのは、古びた一通の契約書。

 ですが、その紙から放たれる『圧』は、先ほどの大司教の聖域など比較にならないほど、重く、絶対的なものでした。


「……これは」


 覗き込んだアラリック様の眼光が、鋭く研ぎ澄まされます。

 わたくしは、震えそうになる指先を抑え、その書類を手に取りました。


『創世盟約・根抵当権設定仮登記証書』


 ……そこに記されていたのは、ルーンガルド王国の領土どころの話ではありません。

 この大陸を流れる魔力の源泉……『大源マナ』そのものを担保に、アストレア家がある『存在』から取り交わした、究極の債権記録。


「……ふふ。お母様、貴女は何て恐ろしいものをわたくしに遺してくださったのかしら」


「セラフィナ様、これは……まさか、世界そのものを差し押さえられるというのですか?」


「ええ。条件さえ整えば、わたくしは『世界の理』に対して不渡りを突きつけ、この星の魔力供給を完全に停止させることすら可能ですわ」


 これこそが、わたくしの手札。

 婚約破棄なんていう些細な出来事は、この巨大な『真実』を引き出すためのトリガーに過ぎなかったのです。


 その時でした。

 地上のほうから、慌ただしい足音が響いてきました。


「セラフィナ様! 大変です!」


 駆け込んできたのは、わたくしが『再雇用』したばかりの騎士団長でした。

 彼の顔は、先ほどの大司教との戦いの時よりも、ずっと青ざめていました。


「……どうかなさいました? わたくしの城で、騒々しいですわね」


「こ、国王陛下が……療養先から帰還されました! それだけではありません。隣国の強国、バルザス王国の精鋭部隊を伴って……殿下の婚約破棄を『支持』し、セラフィナ様を『国家反逆罪』で即刻処刑すると宣言されました!」


 わたくしは、手の中の『世界の根抵当権』を、静かに閉じました。


 あら。……お父様ったら。

 せっかくわたくしが、この国の負債を整理して差し上げようとしていたのに。


 自分から『不渡り』を出しにくるなんて、よほど破滅がお好きなようですわね。


「……アラリック。準備はよろしいかしら? ……次は、この国の『王』を鑑定して差し上げますわ」


「御意。……その首、いつでもオーナーの机の上に並べましょう」


 わたくしは、扇子で口元を隠し、暗闇の中でくすくすと笑いました。

 国王の帰還。他国の介入。

 ふふ……。

 舞台が大きくなればなるほど、回収した時の『利息』が膨れ上がるというもの。


 さあ、本当の『絶望の徴収』を始めましょうか。

お読みいただき、ありがとうございます!

母の遺産は、まさかの「世界そのもの」を担保にした契約書……。

セラフィナ様の目的が、単なる復讐を超えて「世界の再定義」へと繋がり始めました。


ですが、ここで黙っていないのが親バカ(悪い意味で)な国王陛下。

他国の軍勢を連れて、娘を処刑しにやってくるようです。


次回、**「王の帰還、および自己破産のすすめ」**。

最強の助っ人を連れてきたつもりの国王に、セラフィナ様が突きつける「王家の本当の末路」とは?


「お父様、それは死亡フラグですわ!」と思った方は、ぜひ評価やブックマークをお願いいたします。

皆様の応援という名の「投資」が、物語をさらに加速させますの!

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