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第7話:神の家、家賃滞納につき破門いたします

「神の加護を……『差押』だと? 笑わせるな、小娘が!」


 大広間に響き渡る大司教の嘲笑。彼の掲げた黄金の杖から放たれる光は、物理的な質量を伴うかのような重圧となって、わたくしたちを包み込んでいます。

 この城の床に刻まれた魔法陣が、聖なる輝きに共鳴して脈動している。これぞ王家を数百年にわたり守護してきた絶大なる防壁――『聖域サンクチュアリ』。

 かつてこの光を前にして、退かなかった不敬者は一人もいないと言われていますわ。


「この城は神の家であり、法などという俗世の鎖に縛られる場所ではない。貴様のような強欲な女、今すぐ跪いて悔い改めるがいい!」


 大司教の言葉に応じるように、聖騎士たちが一歩前へ。その鎧には加護の光が宿り、通常の一〇倍の防御力を得ているのが見て取れますわ。

 ……あら、わたくしの左目が弾き出したデータによれば、その防壁の維持費は一分間につき魔石三〇個分。実に非効率な、贅沢な光ですこと。


 わたくしは、扇子で口元を隠し、光の嵐の中で優雅に微笑んで差し上げました。


「大司教様。……貴方のその自信は、この『聖域』という名の高コストな防壁に支えられているようですわね。ですが、お忘れではありませんか?」


「何だと?」


「神の家とおっしゃいますが……この土地の登記簿、ご覧になったことは?」


 わたくしは、アラリック様が差し出した新しい書類を、光の魔法陣の境界線へと滑り込ませました。


「この王城が建つ土地は、五〇〇年前の『建国盟約』により、初代公爵家……つまりわたくしのアストレア家が王家に貸し出したものですわ。契約上、この土地の一部を宗教施設として使用する場合、教会は毎年『聖域維持貢献金』という名の地代を支払う義務がございます」


「そんなものは、王家が代行して支払っているはずだ!」


「ええ、昨日までは。……ですが、西離宮で見つかった帳簿を照合いたしましたところ、大司教様、貴方は王家から預かったその支払金を……およそ三〇年にわたり、自分の個人口座へ横流ししていらっしゃいましたわね?」


 大司教の顔から、一瞬で余裕が消えました。

 杖を握る手が、かすかに震えています。


「な……何を……根拠のない不敬を!」


「根拠なら、ここにございますわ。……教会の裏帳簿。貴方が愛人に買い与えた別荘の購入資金と、地代の未払額が見事に一致しておりますの。……つまり、現在、教会はこの土地において『三〇年分の地代滞納』状態にございます」


 わたくしは、冷徹に最後通牒を突きつけました。


「地代の滞納、および不当利得の返還義務。これに基づき、わたくしはたった今、この『聖域』への魔力供給ライン……つまり、わたくしの所有する魔導回路の使用権を一時停止ホールドいたしましたわ」


「……は?」


 大司教が呆けた声を漏らした次の瞬間。

 広間を埋め尽くしていた黄金の光が、まるで電圧の下がった電球のようにチカチカと点滅し……唐突に、霧散しました。


「な……光が……消えた!? 聖域が……破られたというのか!?」


「破ったのではありません。……『利用停止』にしたのですわ。支払わないお客様に、サービスを提供する義務はございませんもの」


 聖なる加護を失った聖騎士たちが、困惑したように立ち尽くします。

 彼らの鎧は、いまやただの重い金属の塊。……そして、わたくしの隣には、その『重い塊』を紙細工のように切り裂ける『投資物件』が控えておりますの。


「……セラフィナ様。これ、片付けてもよろしいですか?」


 アラリック様が、待ってましたと言わぬばかりに剣を抜きました。

 その抜き身の刃が放つ殺気だけで、聖騎士たちが数歩後ずさります。


「ええ、アラリック。ただし、怪我はさせないで。……彼らには、教会が隠し持っている『免税資産』の場所を吐いてもらう必要がありますから」


「承知しました」


 アラリック様が動いた瞬間、広間を支配したのは一方的な蹂躙の音でした。

 加護を失った聖騎士たちは、帝国の皇帝の剣技を前に、防戦一方。……いいえ、戦いと呼ぶことすらおこがましい。

 大司教は、情けなく尻餅をつき、先ほどまでの傲慢さが嘘のように震え始めました。


「ま、待て……待ってください! これは誤解だ! 神の慈悲を……!」


「慈悲、ですの? ……大司教様。わたくしの辞書に『無償の慈悲』という言葉は載っておりませんのよ。載っているのは、『法的措置』と『強制執行』だけですわ」


 わたくしは、床に転がった黄金の杖を、扇子の先でツンと突きました。


「さて。地代三〇年分。延滞利息を含めると……およそ一五億ギルになりますわね。……当然、今すぐ全額お支払いいただけますわよね?」


「じ……一五億!? そんな、教会が破産してしまう!」


「あら。ならば、一つ提案がございます。……大司教様、貴方が持っている『破門エクスコミュニケーション』の権限。……あれを、わたくしに『事業譲渡』してくださるかしら?」


「破門を……譲渡……だと!?」


「ええ。これからは、わたくしの帳簿に従わない者を、わたくしが『経済的に破門』させていただきますわ。……対価として、貴方の横領罪は見逃して差し上げてもよろしくてよ?」


 大司教の瞳に、絶望と、そして生き残るための汚い欲望が混ざり合う。

 わたくしは、彼が崩れ落ちる様を見下ろしながら、確信いたしました。

 これで、この国の物理的な力(城・軍)だけでなく、精神的な力(宗教)までもがわたくしの支配下に入ったのだと。


 ふふ……。

 さて、不法占拠者の掃討が終われば、いよいよ本格的な『国家リフォーム』の開始ですわ。


「……アラリック。次は、西離宮で見つかった『母の隠し金庫』を開けますわよ。……あそこには、この国どころか、世界を買い取れるだけの『担保』が眠っているはずですわ」


「仰せのままに。……どこまでもお供いたします、わたくしの美しい債権者オーナー


 夜明けの光が、わたくしの城を照らし始めました。

 もうすぐ、新しい一日の、新しい徴収が始まりますわ。

お読みいただき、ありがとうございます!

神の加護すらも「利用停止」にしてしまうセラフィナ様……。

大司教様の横領を暴き、宗教的権威まで飲み込もうとする彼女の執念は、まさに複利の如し。


さて、次回。ついにセラフィナ様が「西離宮」に隠された、真の遺産に手をかけます。

亡き母が遺したのは、ただの帳簿ではない……世界を揺るがす「ある契約書」でした。

そして、物置部屋で震えていた王子たちが、ついに最後の「暴挙」に出るようで……?


「聖域すら差し押さえるセラフィナ様、最高!」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをお願いいたします。

皆様の応援が、わたくしの筆に「執筆の加護」を与えてくれますのよ!

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