表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

第27話:暗闇の救世主、および「信用」の強制上書き

「……あ、あああ……。火を、火をください! 魔法が、魔法が使えないんだ!」

「通信が途絶えた! 本部の金庫はどうなっている!? おい、答えろ!」


 王城の執務室の窓下から、阿鼻叫喚の怒号が吹き上がってまいります。

 魔力という名の血液を抜かれたこの大陸は、たった数分で、文明の皮を被った「暗闇の檻」へと変貌いたしました。

 執務室の中にいた中央銀行の使者――灰色の男は、もはや腰を抜かす気力すらなく、ただ床に突っ伏してガタガタと震えております。


「……五〇〇年。……我々が築き上げた、完璧な信用秩序を……貴様は、たった一晩で……!」


「……秩序、ですの? ふふ。……徴収される側の痛みを無視した貸付計画を、秩序とは呼びませんわ。……それはただの『傲慢』という名の不良債権です」


 わたくしは、闇に沈んだデスクの上で、一枚の黄金色の紙幣――『アストレア・クレジット』を指先で弄びました。

 魔力供給が止まったこの世界で、わたくしの魔力だけを吸って淡く、けれど力強く輝くその紙片。


「……さて。……アラリック。……中央銀行のルーンガルド出張所。……あそこの『鉄壁の金庫』、そろそろ賞味期限が切れる頃かしら?」


「……ええ。先ほど、金庫を維持するための魔導回路が完全停止シャットダウンしたのを確認しました。……現在、ただの『重い箱』と化しています」


 アラリック様が、暗闇の中でも正確にわたくしの隣へ寄り添いました。

 彼の纏う漆黒の魔力は、わたくしという「供給元」に直結しているため、この沈没した世界で唯一、牙を剥くことができます。


「……行きますわよ。……世界が『光』を求めているうちに、わたくしの価値を定義インストールして差し上げなくては」


 わたくしは、灰色の男を引きずるようにして、王都の中央広場を見下ろすバルコニーへと出ました。


 眼下には、暗闇に怯え、松明や薪を求めて奪い合いを始めた民衆と、混乱を抑えられずに立ち尽くす兵士たち。

 彼らにとって、魔法が消えた夜は、神に見捨てられたも同義です。


「……皆様。……静粛に」


 わたくしが声を上げると、アラリック様がわずかに魔力を放ち、わたくしの声を「拡声魔法」なしの、純粋な威圧として街中に響かせました。


 人々が仰ぎ見た先。

 暗闇に沈む城のバルコニーに、黄金の光を放つ紙片を掲げた、一人の令嬢。


「……今、世界から光が消えました。……貴方がたが信じていた通貨は紙屑となり、貴方がたが縋っていた神の加護はメンテナンス中ですわ」


 冷酷な宣告に、悲鳴が上がります。

 ですが、わたくしは扇子を広げ、優雅に、かつ圧倒的な慈悲を演じて見せました。


「……ですが、ご安心なさい。……わたくしが、新しい『契約』を持って参りましたわ。……今日、この瞬間から、わたくしの発行するこの『アストレア・クレジット』を手に取る者。……その者にだけ、わたくしは『光』の使用権を再開リスタートいたします」


 わたくしが指先でクレジットを一枚、虚空へ放りました。

 すると、それを起点として、王都の街灯が一斉に――先ほどまでの青白い神の光ではなく、わたくしの意志を象徴する、鮮烈な「黄金色」に点灯いたしました。


「あ……光だ! 光が戻った!」

「アストレア公爵令嬢……! セラフィナ様が、太陽を呼び戻したんだ!」


 人々が、狂ったようにその黄金の街灯に縋り付きます。

 

 いいえ。それは太陽ではありませんわよ。

 わたくしが、貴方がたの生活を『買い取った』証です。


「……中央銀行の使者さん。……ご覧なさい。……民衆が求めているのは、貴方がたの抽象的な『信用』ではなく、目の前で温かく輝く『わたくしの利便性サービス』ですわ」


 灰色の男は、光を取り戻した街と、わたくしの足元に跪き始めた民衆を見て、絶望の笑みを浮かべました。


「……負けだ。……通貨発行権という刃を、貴様は……物理的な『命のスイッチ』に変えたのか……」


「……あら。……ビジネスとは、常に切実なものですわよ」


 わたくしは、次々と黄金に染まっていく街を眺めました。

 王家を潰し、教会を黙らせ、銀行を跪かせた。

 もはや、この大陸でわたくしの帳簿に載らない土地はございません。


 ですが。


 突如として、背筋を凍らせるような『鑑定エラー』が走りました。

 黄金色の街灯が、一瞬だけ、不気味な紫色のノイズに揺れたのです。


「……オーナー。……空の色が」


 アラリック様の警戒に満ちた声。

 見上げれば、雲のない夜空に、巨大な『ひび割れ』が走っていました。

 そこから漏れ出すのは、先ほどの徴収官(天使)など比較にならない、圧倒的なまでの「管理者の殺意」。


「……ふふ。……ようやく、お出ましですわね。……管理委託業者のミスを、本社が直接、是正クビしに来たのかしら?」


 空の割れ目から現れたのは、真っ白な法衣に身を包んだ、天秤を三つ背負う異形の影。

 神域最高監査官。

 この世界の「システムそのもの」を維持するために、不適合者わたくしを排除しに来た、最後の執行人。


「……面白くなって参りましたわ。……アラリック。……わたくしたちの新しい通貨の価値、神様の命を『担保』にして、さらに跳ね上げて差し上げましょうか?」


 わたくしは扇子を強く握り締め、空を裂いて現れた「神の監査」に向かって、不敵な笑みを投げかけました。


 さあ。……第一部、本当の最終決算ファイナル・クリアランスの始まりですわ!

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

世界を黄金の「アストレア・クレジット」で染め上げるセラフィナ様。

もはや彼女自身が、太陽であり、銀行であり、神なのですわね。


ですが、システムの崩壊を危惧した「神域本社」がついに直接介入!

三つの天秤を背負う最高監査官の前に、セラフィナ様のロジックは通じるのか?

そして、物置部屋で震えていたジュリアン様たちが、この混乱に乗じて何か「余計なこと」を思いついたようで……。


「神域との最終決戦、楽しみ!」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをよろしくお願いいたします。

皆様の応援が、わたくしの物語を「不滅の資産」へと押し上げてくれますのよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ