第24話:債権者会議? いいえ、ただの「資産整理」ですわ
「……ルーンガルド王国に貸し付けた三億ギル! そして遅延損害金を含めた計五億ギル! 新オーナーを名乗るなら、今すぐこの場で支払ってもらおうか!」
王城の大広間に、野卑な怒声が叩きつけられました。
声を張り上げたのは、隣国ガルバニアの王、オズワルド。
その背後には、同じくルーンガルドの「債権者」を自称する三つの国の王族たちが、威圧するように並んでいます。
城門の外には、彼らが連れてきた計三万の連合軍。
「会議」とは名ばかり。支払いが滞れば、即座にこの国を分割統治……要するに、略奪して切り分けようという魂胆ですわね。
わたくしは、玉座の隣に置かれたお気に入りの事務椅子に深く腰掛け、手にした『大陸主要国家・信用格付け表』に、静かに目を通しました。
「……あら、オズワルド陛下。……随分とお顔の色がよろしいですわね。……ご自身の国の『国庫』が、昨夜の時点で空っぽになったこと、まだご存じないのかしら?」
「……何だと? 何を寝言を!」
「アラリック。……その『ゴミ』を、陛下に見せて差し上げて」
わたくしの背後に控えるアラリック様が、無造作に一束の書類をオズワルド王の足元へ投げ捨てました。
アラリック様は、わたくしの視線を一秒たりとも外さず、けれどその殺気だけで、並み居る他国の王たちを震え上がらせています。
「……それは、貴方の国が発行した『対外債務証書』の写しですわ。……陛下。貴方はルーンガルドに五億ギルの請求権(資産)を持っているとおっしゃいましたが……。……その権利を担保に、貴方の国はバルザス王国から十億ギルを借り入れていらっしゃいましたわね?」
「そ、それがどうした! それは国家間の正当な融資だ!」
「ええ。……ですが、そのバルザス王国が、今朝未明に『資金繰りの悪化』を理由に、その債権を市場に売り出しましたの。……それを、わたくしが二束三文で買い叩かせていただきました」
わたくしは、扇子をパチンと閉じ、オズワルド王の鼻先を指し示しました。
「……おめでとうございます。……陛下。……貴方は今、わたくしに五億ギルを請求する権利を失い……逆にわたくしに対し、十億ギルの債務を負う『わたくしの下請け業者』に転落いたしましたわ」
「な……なあああっ!? 馬鹿な、バルザスが債権を売るはずがない!」
「売らざるを得なかったのですわよ。……バルザス王国の主要な港と街道の『通行権』を、わたくしが昨夜のうちにすべて買い占めて(ホールドして)しまいましたから。……物流を止められた彼らに、現金を作る手段は、貴方の国の『借用書』を売ること以外にございませんでしたの」
広間に、戦慄が走りました。
昨日まで「隣国の令嬢の火遊び」だと高を括っていた他国の王たちが、いまや自分たちの首に、見えない『金の鎖』が巻き付いていることに気づき始めたのです。
「せ……セラフィナ・アストレア……っ! 貴様、金で、金だけで世界を支配するつもりか!」
「支配? ……あら、心外ですわね。……わたくしはただ、不透明な貸し借りを『整理』しているだけですの。……さて、皆様。……本日の債権者会議の議題を変更いたしますわ」
わたくしは、冷徹な微笑を浮かべ、広間に集まった四ヶ国の代表たちを見渡しました。
「……本日中に、わたくしへの債務返済計画を提示できない国は……たった今を以て『デフォルト(債務不履行)』とみなし、王都に駐留している軍勢を、わたくしの『私設警備隊』として再雇用させていただきますわ。……あ、お給料はわたくしが払いますので、兵士たちは喜んで主君を裏切るでしょうね」
「き、貴様ぁぁぁ!」
オズワルド王が、逆上して腰の剣に手をかけようとしました。
「――動くな。……貴様の指が、オーナーに触れる前に、その国ごと切り刻んでやろうか」
アラリック様が、わずかに一歩、前に出た。
それだけで、大広間の空気が物理的に凍りつきました。
帝国の鉄血皇帝。彼が「わたくしの資産」であると確信した今、彼から放たれる殺意は、もはや暴力ではなく『不可避の執行』ですわ。
「ひ、ひぃぃ……っ!」
オズワルド王は腰を抜かし、そのまま床にへたり込みました。
他の王たちも、もはや戦う意志など一欠片も残っていません。
「……ふふ。……鑑定、終了ですわね。……アラリック。……この方々に、物置部屋の『相部屋プラン』をご案内して。……あ、ジュリアンたちと一緒に、帳簿の整理を手伝わせてあげてくださる?」
「御意。……無能が四人増えましたが、効率は上がりそうにありませんな」
「構いませんわ。……一ギルも稼げない王たちが、一ギルの重みに泣く姿……。……それこそが、わたくしの帳簿における最高の『特別利益』ですもの」
こうして、大陸を揺るがすはずだった「債権者会議」は、わずか数分で、わたくしによる『他国の強制買収(M&A)』へと変貌いたしました。
ですが。
わたくしは、震えながら連行されていく王たちの背中を見送りながら、手元に残った一枚の『不審な送金記録』を凝視していました。
(……おかしいですわね。……この四ヶ国、ルーンガルドを攻めるための資金……どこから調達したのかしら? ……どの国の国庫からも、そんな巨額の支出は見当たらない。……まさか)
わたくしの背筋に、わずかな冷気が走りました。
「……アラリック。……この大陸に、わたくし以外に『無限の融資』を行える者が……まだ、潜んでいるようですわ」
「……オーナー。……もしや、あの“教会”の奥に?」
わたくしの帳簿に載らない、正体不明の資本。
ふふ……。
見つけましたわよ。……姿を見せない『闇の投資家』さん。
……わたくしの市場を荒らす不届き者には、徹底的な『追証』を求めて差し上げますわ。
お読みいただき、ありがとうございます!
大軍を連れてきた四ヶ国の王たち、あっという間に「借金まみれの居候」に格下げですわ。
ジュリアン様たちとの相部屋生活、想像するだけで賑やか(地獄)そうですわね。
さて、次回。セラフィナ様が暴き出す、四ヶ国を裏で操っていた「謎の資金源」。
それは、教皇庁のさらに奥、歴史の影に隠された「中央銀行」の存在でした。
ついに物語は、セラフィナ様と「世界の金主」との直接対決へ……!
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