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第21話:神の帳簿、粉飾決済の疑いあり

「……正気か、人間よ。我が提示した『神域の元帳』に対し、その細い指で赤を入れようというのか」


 玉座の間の中央。浮遊する天使の天秤が、不気味な軋みを上げて揺れています。

 わたくしの前には、光り輝く魔力の奔流で編まれた一冊の巨大な書物――『神域運用元帳』が展開されておりました。

 一文字一文字が世界の理そのもの。凡人が見ればその情報量に脳が焼き切れる代物ですが……わたくしの左目、鑑定眼アプレイザルは、既にこの「光り輝くゴミ」を解析し終えております。


「……ふふ。……正気かと問われれば、これほど正気な瞬間はございませんわ。……徴収官様。……貴方の持ってきたこの帳簿、一言で申し上げてもよろしいかしら?」


 わたくしは、愛用の羽根ペンに特製の『魔力遮断インク』を浸し、光のページをパラリと捲りました。


「……これ、明白な『粉飾決済』ですわね」


「……何だと?」


 天使の声に、一瞬だけ神聖な殺気が混じりました。

 柱に縛られたまま気絶していたジュリアンが、その圧にあてられて「ふぎゃっ!」と奇声を上げて目を覚ましましたが……今はノイズですわ。無視なさい。


「徴収官様。……貴方がたは、ルーンガルド王家に対し『五〇〇年分の魔力利用料』として寿命を請求していますわね。……ですが、この帳簿の資産項目アセットにある『大地のマナ流出量』と、負債項目ライアビリティにある『加護の配当額』……数字が全く一致いたしませんの」


 わたくしは、光の文字の一箇所に、鋭く赤い線を引きました。


「……ここですわ。……五〇〇年前、建国時の『加護の付与』。……神域はこれを“無償の贈与”として計上していますが、実際にはその裏で、大地の底にある『始原の魔力源』を担保に、将来的な寿命の徴収権を“証券化”して、他の神域へ売却していらっしゃいますわね?」


「……ぐ、く……。それは……天上の経済循環において必要な……」


「いいえ。……これは二重帳簿、あるいは資産の過大評価ですわ。……加護という名の“劣後債”を王家に押し付け、その裏で確実な資産(寿命)を他所で売り捌く。……徴収官様。……これ、俗世では『詐欺的融資』と呼びますのよ?」


 わたくしの指摘と共に、光り輝いていた帳簿がドロリと色褪せ、醜い黒いシミが浮かび上がりました。

 真実という名の「監査」の前に、神聖な虚飾は維持できませんわ。


「な……なあああっ! セラフィナ様、今なんておっしゃいました!? 神様が、詐欺!? 王家は騙されていたんですか!?」


 柱に縛られたジュリアンが、情けなくも必死に身を乗り出しました。

 わたくしは、扇子で彼を制し、冷たく言い放ちました。


「騙されていた、というよりは……『無知ゆえにカモにされた』という表現が正確ですわね、ジュリアン。……お父様も、貴方も、契約書の小さな注意書きを読み飛ばして、目先の奇跡ボーナスに目が眩んだ。……そのツケを、今、わたくしが精算しているのです」


 わたくしは再び、天使に向き直りました。


「徴収官様。……この粉飾が公になれば、他の王国の債務者たちも黙ってはいないでしょう。……『神の加護はボッタクリだった』と知れ渡れば、貴方がたの信用の格付けは一気に『デフォルト(債務不履行)』レベルまで暴落いたしますわよ?」


 天使の天秤が、ガタガタと激しく音を立てました。

 人知を超えた存在が、ただの人間の少女によって「破産」の恐怖を突きつけられている。

 

「……望みは何だ、監査人セラフィナ。……魂を対価に、何を望む」


「ふふ。……話が早くて助かりますわ。……わたくしの要求は三つ。……一つ、ルーンガルド王家の寿命債務を、現在の適正価格まで『大幅に減額』すること。……二つ、今後一〇〇〇年間の魔力供給契約を、神域の中抜きなしで直契約に切り替えること」


「……三つ目は?」


 わたくしは、扇子の隙間から、ゾクゾクとするような微笑を浮かべました。


「……三つ目。……この不誠実な帳簿の奥に隠されている……わたくしの母、エレインが神域に残したという『秘密の隠し口座』。……その中身を、すべて開示してくださるかしら?」


 その瞬間。

 天使の天秤が、パリンと真っ二つに割れました。

 

 わたくしの母、エレイン。

 彼女がなぜ、世界の根抵当権を持っていたのか。

 神域の帳簿の歪みは、すべて母という名の「最大の債権者」に繋がっているはずなのです。


「……ふふ。……徴収官様。……お顔が真っ青ですよ? ……あ、失礼。貴方にお顔はありませんでしたわね」


 世界のルールを書き換える監査。

 わたくしの帳簿は、いよいよ神の隠し財産へと手をかけ始めました。

お読みいただき、ありがとうございます!

神域の「粉飾決済」を暴くセラフィナ様……。

「奇跡」という名の劣後債を押し付けられた王家、本当におめでたいカモでしたわね。


さて、次回。ついに明かされる「母エレインの隠し口座」の中身。

そこには、セラフィナ様の出生にまつわる、あまりにも巨額な「利息」が眠っておりました。

そして、天使が最後に放った、呪いのような「最後の通告」とは――?


「神様すらも破産させるセラフィナ様、最高!」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをよろしくお願いいたします。

皆様の応援が、わたくしの物語に「神をも超える資産価値」を与えてくれますのよ!

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