表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

第2話:不法占拠者への強制執行 〜王族、物置部屋を月極で借りる〜

「な、何を……何を言っているんだ。ここは僕の家だぞ! 父上、父上を呼べ! こんな非道、許されるはずが――」


 静まり返った大広間に、ジュリアン殿下の……いえ、ジュリアン様の情けない叫びが虚しく木霊します。

 わたくしは、床に散らばったシャンパングラスの破片を避けて、一歩前へ踏み出しました。


「残念ながら、国王陛下は現在、離宮にて療養中。そして、その離宮の維持費を現在進行形で立て替えているのも、わたくしのアストレア公爵家ですわ。陛下も、自分の家賃を払ってくれている相手に逆らうほど、愚かではございません」


「家賃だと……!? 陛下に向かって、なんという不敬を!」


「あら、不敬? おかしなことをおっしゃる。金銭を支払い、物件を借りる。これは極めて誠実な『契約関係』ですわ。それを不敬と呼ぶのであれば、世の借金主はみな大罪人になってしまいますわね?」


 わたくしは、扇子でジュリアン様の喉元を優しく、けれど拒絶を許さぬ鋭さで指し示しました。


「さて、ジュリアン様。そしてシャーリー様。先ほど申し上げた通り、この城はたった今、わたくしの私有物となりました。不法占拠者をこのままにしておくわけには参りません。……騎士の皆様、執行を」


 わたくしの合図とともに、先ほどまで殿下に忠誠を誓っていた騎士たちが、無表情に歩み寄ります。

 彼らが手にしたのは剣ではなく……大きな布袋でした。


「な、何をする! 離せ! 貴様ら、僕を誰だと思っている!」


「『元』王太子様、暴れないでいただけますか。……セラフィナ様、回収を開始いたします」


 騎士団長の声は、氷のように冷徹でした。

 彼らは、ジュリアン様が身につけていた『王家の証』であるマントを剥ぎ取り、金の刺繍が施された上着のボタンを無造作に外していきます。


「あ、あああ! 僕の服が! 汚い手で触るな!」


「そのお洋服の生地、最高級の西域絹シルクですわね。一反で平民の家が建つ代物。……もちろん、アストレア家が輸入し、無償で提供したものですわ。返却していただくのは当然ですわね?」


 わたくしは次に、シャーリー様のほうへ視線を向けました。

 彼女はわたくしの視線に怯え、震える手で自分の胸元を隠しています。


「や、やめて……わたくしは聖女なのよ! こんな無礼なことをして、神の罰が当たっても知らないんだから!」


「神の罰? ふふ、面白いことをおっしゃる。……シャーリー様、貴女が今お召しになっているそのドレス。一二〇万ギルの逸品でしたわね? それに使われている魔力石、わたくしの家が運営する鉱山で採掘されたものですの。……契約上、アストレア家の資産である魔力石を『不当な手段(王子の愛という不確かな対価)』で入手した場合、即時返還の義務が生じますのよ」


「そんな……! 嘘よ、これは殿下がプレゼントしてくれたものよ!」


「ええ、殿下が『わたくしの金』で買ったものですわ。つまり、横領品の処分と同じ。……騎士の皆様、彼女にも『代わりの服』を差し上げて」


 騎士が差し出したのは、麻で編まれた、ゴワゴワとした灰色の掃除人用の服でした。


「嘘……嫌よ! こんな汚い格好、わたくしには似合わないわ!」


「あら、よくお似合いですわよ? 『身の丈』に合っているという意味では、最高にエレガントですわ」


 大広間の中心で、煌びやかな礼装を剥ぎ取られ、安物の服に着替えさせられた二人の姿は、まさに滑稽そのものでした。

 周囲の貴族たちは、最初は恐怖に震えていましたが、そのあまりの惨めな姿に、今度は軽蔑の視線を向け始めています。

 王族としての威厳という名のメッキが、剥がれ落ちていく音が聞こえるようですわ。


「……セラフィナ、貴様……絶対に許さないぞ。明日、父上が戻られたら、貴様の一族を皆殺しにして――」


「明日、ですの? 随分と悠長なことですわね。……今夜、貴方たちが寝る場所すら決まっていないというのに」


 わたくしは、一枚の新しい契約書を取り出しました。


「本来であれば、今すぐ城の外へ放り出すところですが……わたくしも鬼ではございません。一晩中、凍える夜道を彷徨わせるのは忍びない。……そこで、特別なプランをご用意いたしましたわ」


「プラン……だと?」


「ええ。城の最北端、地下倉庫の隣にある『物置部屋』。そこであれば、一晩一〇万ギルで貸し出して差し上げますわ。……あ、もちろん、前払いですのよ?」


「じ、十万ギル!? あんな埃っぽい部屋に!? 普段なら銀貨一枚でも高いような場所だぞ!」


「あら、需要と供給の問題ですわ。今、この王都で『王族の身分を隠して泊めてくれる安全な場所』は、わたくしの城以外にございませんもの。……それとも、今すぐその格好で、怒り狂った民衆が待つ城門の外へ出ますかしら?」


 ジュリアン様は絶句しました。

 彼は震える手で、懐に残されていた最後の宝石……わたくしが以前贈った、婚約の印であるタイピンを差し出しました。


「……これで、これでいいだろう。今夜だけでいい、泊まらせろ」


 わたくしは、そのタイピンを指先で受け取り、光に透かしました。


「三〇万ギル相当、ですわね。……手数料を引いて、二泊分。承りましたわ。……案内して差し上げて」


 騎士たちに引きずられるようにして、元王子と偽聖女が広間を去っていきます。

 その背中に向けられたのは、もはや畏怖ではなく、ただの『哀れみ』でした。


 さて。

 不法占拠者の処理が終われば、次はお仕事の時間です。


「セラフィナ様」

 騎士団長が、表情を硬くして近づいてきました。


「どうかなさいましたか?」


「……城門に、隣国の『鉄血皇帝』アラリック陛下が到着されました。五〇〇の重装騎兵を率いて、『オーナーに挨拶に来た』と」


 わたくしは、思わず唇を綻ばせました。

 予定よりも早い到着。

 わたくしが、この国を買い取るための資金(資本)として投資しておいた、最大の『物件』がようやく姿を現したようですわ。


「ふふ……お迎えの準備を。わたくしの最高の大切な『資産』を、粗相のないようにお通しして?」


 愛など信じませんが、信頼できる『投資先』なら、歓迎いたしますわよ。

お読みいただき、ありがとうございます。

ドレスを剥がされ、麻袋のような服で物置部屋へ連行される王子と聖女……。

「身の丈」に合った生活の第一歩ですわね。


さて、次回、ついに最強のヒーロー・アラリック皇帝が登場いたします。

彼はセラフィナ様にとって「愛する人」……ではなく、「最高級の投資物件」なのだとか。

二人の再会が、没落した王家にとってさらなる「絶望の追加融資」になることは間違いありませんわ。


「この続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをよろしくお願いいたします。

皆様の応援が、わたくしの執筆意欲という名の純利益になりますの!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ