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第18話:関税の女王、商連盟を買い叩く

「……な、何を、バカな。脱税……? 十二億……? そんなデタラメが通ると思っているのか!」


 脂ぎった顔を真っ青に染め、ボルマンが吠えました。

 先ほどまでの余裕はどこへやら、突き出した十億ギルの契約書を持つ手が、生まれたての小鹿のように震えていますわ。

 わたくしは、優雅に紅茶を一口啜り、その震える指先を慈しむように見つめました。


「デタラメ、ですの? ……あら、ボルマン様。貴方の連盟が過去五年間にわたって、『聖域通過貨物』として申告し、関税を免れていた木箱の中身……。あれ、中身は神聖な祭具ではなく、隣国の最高級度数の蒸留酒でしたわね?」


「そ、それは……!」


「酒税の脱税、および虚偽申告。……わたくし、昨夜のうちに王都の港の全倉庫を『棚卸し』させていただきましたの。……計算、合わないかしら? ならば、今すぐ全在庫をこの広場に並べて、一本ずつ鑑定して差し上げてもよろしくてよ?」


 わたくしの言葉に、ボルマンの背後にいた護衛の男たちが、思わず数歩後ずさりました。

 彼らもまた、自分たちが「法律」ではなく「冷徹な計算機」を敵に回したことに気づいたのでしょう。


「……アラリック。……この不届きな『脱税犯』、わたくしの私有地でこれ以上騒ぐようなら、不法侵入罪も上乗せして差し上げて?」


「承知した、オーナー。……即座にこの男の資産を物理的に『凍結』しよう。文字通り、氷漬けにしても構わないか?」


 アラリック様が、無感情に剣をわずかに抜きました。

 放たれる冷気と殺気に、ボルマンはついにその場に膝をつき、デスクの上の黒い手帳……脱税の証拠を凝視しました。


「ま、待て……! セラフィナ様、待ってください! 我々が悪かった。十億の請求は取り下げよう! だから、その手帳を伏せてくれ! あれが公になれば、商連盟は大陸中から取引停止を食らってしまう!」


「あら。……『取り下げる』だけで済むとお思い? 随分とおめでたい頭をしていらっしゃいますわね。……わたくしが求めているのは、相殺後の差額二億ギルの支払い、および……」


 わたくしは、一枚の新しい契約書をボルマンの鼻先に突きつけました。


「……商連盟ルーンガルド支部の、わたくしへの『無償譲渡』ですわ」


「な……なあああっ!? 無償譲渡だと!? この国の物流網を、丸ごと寄越せというのか!」


「いいえ。……脱税の罰金ペナルティを、現物で納付していただくと言っているのです。……それとも、今すぐ騎士団を連れて、貴方の連盟の本部へガサ入れ(強制捜査)に行きますかしら?」


 逃げ場はない。

 ボルマンの瞳から、商人としての光が消え、ただの「負債を抱えた男」の絶望が宿りました。

 彼は震える手でペンを取り、わたくしが提示した『事業譲渡契約書』に、自身の印を捺しました。


「……ふふ。……賢明な判断ですわ、ボルマン様。……今日から貴方は、わたくしの物流部門の『平社員』です。……まずは港の荷運びから、一ギルを稼ぐ尊さを学んでくださいな」


 騎士たちに引きずられていくボルマン。

 これで、王国の血流である物流網も、わたくしの掌の上です。


 執務室に静寂が戻ろうとした、その時。


「……あ、あの。……セラフィナ、様」


 足元で、埃にまみれて書類を整理していたジュリアンが、震える声でわたくしを呼びました。

 その手には、ボロボロになった古い会計帳簿の表紙……その裏側に隠されていた、小さな『銀色の鍵』が握られていました。


「……なんだ。……計算が終わったのか? ジュリアン」


「い、いえ。……そうではなく。……この、三年前の『緊急軍事予算』の綴じ込みの裏に、これが。……これ、見覚えがあります。……父上が、死んでも手放すなと言っていた、王家最深部の『秘匿金庫』の鍵です」


 わたくしは、扇子を閉じ、その鍵を凝視しました。

 アラリック様が、警戒するように一歩前に出ます。


「……金庫、ですの。……エドワード様が、破産してもなお隠し通そうとした、負債の山かしら?」


「分かりません。……でも、そこには『王家の魂』が眠っていると……。……セラフィナ、これ、僕が開けてもいいんですか?」


 ジュリアンの瞳には、微かな期待が宿っていました。

 もしそこに、膨大な隠し財産があれば。……自分は再び、王子に戻れるのではないか。そんな卑しい希望が透けて見えますわ。


 わたくしは、くすくすと笑いました。


「……ふふ。……よろしいわ、ジュリアン。……貴方のその『希望』が、どれほど無価値なものか。……わたくしが、徹底的に鑑定して差し上げますわ」


 王家の最深部。

 そこにあるのは、逆転の資産か。……あるいは、世界を破滅させるほどの『簿外負債』か。


 どちらにせよ、わたくしの帳簿に載らないものは、存在しないも同義ですのよ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

強欲な商人ボルマンも、セラフィナ様の「脱税ガサ入れ」の前には無力でしたわね。

これからは、彼もまた麦粥を啜る日々が始まることでしょう。


さて、次回。ジュリアンが見つけた「王家秘匿金庫」の鍵。

重厚な扉の向こう側に眠っていたのは、輝く金貨……ではなく、王家が代々隠し続けてきた「禁忌の契約書」でした。

その内容を知った時、セラフィナ様の計算が、初めて狂い始める――?


「金庫の中身が気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをよろしくお願いいたします。

皆様の応援という名の「追加融資」が、わたくしの筆をさらなる深淵へと導きますわ!

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