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第10話:禁忌の魔法、その利息は魂でも足りませんわ

「……あはっ、あはははは! 見て、見てくださいませ、セラフィナ様! これこそが神すらも恐れる真の救済……貴女の卑しい数字など、すべて飲み込む闇の力ですわ!」


 大広間を満たす黒い霧の正体。それは、かつて聖女と呼ばれた少女の肉体を苗床にして咲いた、ドロドロとした負の魔力でした。

 シャーリー様の瞳は白濁し、その背後には異形の影が蠢いています。

 あまりの禍々しさに、バルザス軍の精鋭騎士たちまでもが「ひ、ひぃ……化け物だ!」と悲鳴を上げて逃げ惑う始末。


 ですが、わたくしは扇子を口元に当て、その「闇」をじっくりと鑑定させていただきました。


「あら。……それが貴女の選んだ『逆転の融資先』ですの? シャーリー様」


「強がりはやめなさい! この力は、貴女がいくら金を積んでも買えない……命を糧とする絶対的な破滅! 死になさい、セラフィナ!」


 シャーリー様が腕を振るうと、黒い触手が濁流となってわたくしへと殺到しました。

 アラリック様が即座に前に出ようとしましたが、わたくしは左手を挙げてそれを制します。


「……アラリック、下がっていて。……これに剣(物理的な力)を使うのは、資源の無駄遣いですわ」


 わたくしは、懐から先ほど手に入れた『創世盟約・根抵当権設定仮登記証書』――その写しを掲げました。


発動アクティベート。……対象、目の前の『出所不明の魔力供給』。……規約、照合開始」


 わたくしの言葉に呼応し、書面が白銀の光を放ちました。

 殺到していた黒い霧が、わたくしの数センチ手前で、まるで目に見えない壁に衝突したかのようにピタリと止まります。


「な、なんですって……!? なぜ……なぜ、わたくしの闇が届かないの!?」


「シャーリー様。……貴女、その力を手に入れる際、ちゃんと『利用規約』を読みましたかしら? ……いえ、読みませんでしたわね。貴女、数字が苦手ですもの」


 わたくしは、静かに一歩、闇の渦中へと踏み出しました。


「その『闇の力』……正しくは『大源マナの過剰貸付』と呼ばれる現象ですわ。貴女に力を与えた存在は、貴女の命を担保にして、この世界の根源から『不正なオーバードラフト(当座貸越)』を行っていますの。……つまり、これ、明白な『闇金』ですわよ」


「闇……金……?」


「ええ。この大陸の魔力運用を統括する根抵当権は、現在、わたくしが管理しております。……貴女が今使っている魔力、それはわたくしの許可なく、世界の資産を勝手に引き出している『不正な融資』。……当然、わたくしには、その取引を強制停止する権限がございますわ」


 わたくしが書類の特定の箇所を指先でなぞると、シャーリー様の背後の影が、耳を劈くような絶叫を上げました。


「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁ! あ、あつい、身体が……燃える……っ!」


「シャーリー様! しっかりしろ! その力で、早く、早くあの女を殺すんだ!」


 後方で国王陛下が叫んでいますが、シャーリー様にはもう、わたくしに攻撃する余裕などございません。

 彼女の全身から、黒い泥のようなものが噴き出し、逆に彼女自身の生命力を吸い取り始めました。


「……気づいていらっしゃらない? その『闇の魔法』、一秒使用するごとに、貴女の寿命を十日間分、利息として徴収していますわよ。……今、この数分間で、貴女の残高はもう底を突いていますわ」


「う……そ……うそよ、そんな……わたくしは、聖女……っ」


「いいえ。……現在の貴女は、返済の見込みのない『破産者』に過ぎませんわ」


 わたくしは、無情に言い放ちました。

 光を失い、闇からも見捨てられたシャーリー様が、床に崩れ落ちます。その肌は急激に色褪せ、艶やかだった髪は白く枯れ果てていきました。


 これが、契約ルールを無視して力を得ようとした者の末路。

 自分自身の命を、最も不利な条件で売り払った愚か者の姿ですわ。


「……お父様」


 わたくしは、腰を抜かして震えている国王へと歩み寄りました。


「……最後の希望だった『魔法による解決』も、ご覧の通り債務不履行で終わりました。……さて、他に何か、換金可能なプライドは残っておりますかしら?」


「セ……セラフィナ……。お前、お前は……なんて恐ろしい……」


「あら、褒め言葉として受け取っておきますわ。……さあ、騎士の皆様。この『元』国王陛下と、利用規約違反の少女を、地下へお連れして。……あ、シャーリー様に関しては、命に関わりますので『生命維持費(高額利息付き)』を別途計上させていただきますわね」


 騎士たちが、もはや抵抗する気力もない二人を引き立てていきます。

 広間に静寂が戻り、アラリック様が静かにわたくしの隣に跪きました。


「……見事な手際です、オーナー。ですが、一つ懸念が。……彼女にその『不正融資』を提案した輩が、城外に潜んでいるようです」


「ええ。……わたくしの管理する魔力に、勝手に裏口バックドアを作ろうとする不埒な輩……。……どうやら、教会の奥に、まだ整理の必要な『ゴミ』が残っているようですわね」


 わたくしは、母の遺した契約書を静かに閉じました。

 本当の戦いは、ここから。

 世界のバランスを崩してまで利益を得ようとする、巨悪という名の『不当利益取得者』たち。


 ふふ……。

 一ギル残らず、徹底的に清算して差し上げますわ。

お読みいただき、ありがとうございます!

禁忌の魔法すらも「闇金」として切り捨てるセラフィナ様……。

「利用規約を読みなさい」という言葉が、これほどまでに残酷に響くとは思いませんでしたわ。


さて、次回。ついに王国の騒乱の「真の黒幕」……

シャーリーに闇の力を与え、王家を裏から操っていた教会の「闇」が姿を現します。

その正体は、セラフィナ様の母とも因縁がある人物で――?


「セラフィナ様の冷徹な論破、もっと見たい!」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをお願いいたします。

皆様の応援が、わたくしの執筆意欲の「法定金利」を跳ね上げてくれますの!

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